電子契約の訴訟における取扱い

当事務所の今夏のニューズレターでは電子契約の概要についてお伝えしました(https://ikeda-lawoffice.com/wp-content/uploads/2020/08/NO.25.pdf)。本ブログでは,電子契約の訴訟における取扱いについて簡単に解説します。

1 契約書にまつわる論点(成立の真正・二段の推定)

(1) 成立の真正

紙の契約書を訴訟において証拠とするにあたり,その契約書が,作成者=契約当事者の意思に基づいて作成されたこと(「成立の真正」といいます。)が必要です。要は,作成名義人が真に作成した,誰かが偽造していないということです。

訴訟では契約書の成立の真正が争われることがあります。

(2) 二段の推定

この点に関して,民事訴訟法228条4項に,有印私文書について,本人または代理人の署名または押印があれば,文書の成立の真正を推定するという規定があります。

更に,作成名義人本人の印章による印影が顕出された場合は,反証のない限り,その印影は作成名義人本人の意思に基づいて顕出されたと事実上推定(①)されるという判例があります。

この,①の推定を経て,上記の民訴法228条4項により,有印私文書の成立の真正が推定されます(②)。

このロジックは,①,②と二段階の推定過程を経るため,二段の推定と呼ばれています。

(3) 二段の推定により,契約者本人名義の印章による印影が契約書に押印されていることが立証できれば(本人専用の実印であることを,印鑑証明書で立証することが考えられます。),文書の成立の真正が推定される,すなわち,特に反証のない限り,契約自体は成立していると扱われることになります。

 

2 電子契約の成立の真正の立証

電子契約も,紙の契約書と同様に成立の真正の立証が必要です。そこで,電子契約にも,二段の推定の考え方が適用されるかが問題になります。

電子契約は,①当事者が自ら秘密鍵を用いて電子署名を行うタイプ(当事者型)と,②サービス提供事業者が立会人として電子署名を行うタイプ(立会人型)の2種類あります。

当事者型の電子契約には二段の推定の考え方が適用される可能性があります。前述の,事実上の推定(①/1段目の推定)が及ぶかについて,電子契約に関し判断した裁判例はありません。しかし,「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)上の要件(本人性,非改ざん性等です。)を満たす電子署名であれば,同法3条(民訴法228条4項と類似の規定です。)により成立の真正が推定されるところ,当事者型の場合,二段の推定の考え方を適用する基礎があると言われています。

他方,立会人型の電子契約には,二段の推定が及ばないと解釈されています。立会人型の場合,契約当事者自ら電子署名を付す形式ではないため,電子署名法が要求する署名の本人性を欠くところ,同法により成立の真正が推定されず,二段の推定の考え方を適用する基礎がないと解されるためです。

しかし,電子契約市場の多数派は,立会人型です(Docusign,クラウドサインなど)。当事者型は,認証機関で本人の電子署名を認証してもらい証明書を発行してもらわなければ利用できないというコスト的なデメリットがあり,あまり普及していません。

立会人型電子契約の成立の真正が争われた場合,二段の推定が及ばないとなると,どう成立の真正を立証するのか問題となりますが,契約締結に至る経緯や,電子契約を用いることを当事者間で合意していたことを示すメール等を材料に,立証していくことになると思われます。

このように,立会人型のタイプには成立の真正の立証に関する煩雑さはあるものの,継続的な取引相手との契約や,締結済みの紙の基本契約に紐づく個別契約等,本人・権限確認の問題が生じにくい場合は,成立の真正が争いになる可能性も低いです。そのような場合は,立会人型を利活用する方が日々の取引をスムーズに行ううえでメリットが大きいと思います。

 

3 まとめ

契約類型や取引内容により,成立の真正が争われる可能性は変動するので,当事者型と立会人型いずれの電子契約を活用するか,あるいは紙の契約書とするべきかのルールを,社内の文書管理規程で示す必要があります。

電子契約導入にあたり,社内のルール策定にお悩みの事業者様はぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。                <藪内遥>