法律コラム

自治体のカスタマー・ハラスメント対策


1 はじめに

9月のコラムでも取り上げた通り、今年の10月から、改正労働施策総合推進法(カスハラ対策法)が施行されました。この法律では、33条において、事業主に対し、職場における顧客等の言動に起因する問題に関し雇用管理上の措置を講ずること等を義務付けていますが、この規定は地方公務員についても適用されます(適用除外について定めた48条が、地方公務員について33条の適用を除外していないため)。そのため、自治体においても、同法に基づいた対策をしなければなりません。

もっとも、自治体のカスタマー・ハラスメント(以下「カスハラ」といいます)対策では、同法以外にも考慮しなければならないことがあります。

本コラムでは、自治体のカスハラ対策において、特に考慮すべきこと及び対策としてすべきことについて概説します。

2 自治体のカスハラ対策において特に考慮すべきこと

⑴ カスハラ対策において考慮すべき法令

上述のとおり、地方公務員については、カスハラ対策法33条が適用される一方で、一般の国家公務員や裁判所職員については、上記33条は適用が除外されており(同法48条)、代わりに人事院規則10-17(カスタマー・ハラスメントの防止等)が定められています。

この人事院規則は、地方公務員に直接適用されるものではありませんが、総務省自治行政局から各都道府県総務部長等宛に出された「カスタマーハラスメントの防止に向けた対応について」(総行女第13号令和8年4月16日)では、以下のようにされており、自治体におけるカスハラ対策としても、人事院規則の内容を理解しておく必要があります。

地方公共団体におけるカスタマーハラスメント対策は、職員がその能力を充分に発揮できる勤務環境を保持することによって質の高い行政サービスを提供するためにも効果的・積極的な取組が求められると同時に、行政サービスの利用者の権利等に留意する必要があることに鑑み、今回制定された人事院規則等の内容も踏まえ、改めて下記事項にご留意の上、カスタマーハラスメントの防止に向けて適切に対応いただくようお願いいたします。

(下線は引用者による)

⑵ カスハラの定義

上記⑴に関連し、カスハラ対策法と人事院規則では、カスハラの定義が異なっています。

カスハラ対策法上の定義(33条1項)

①職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(顧客等)の言動であって、

②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより

③当該労働者の就業環境が害されること

人事院規則10-17の定義(2条)

①職員の職務に係る行政サービスの利用者等からの言動であって

②職員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えるものにより、

③職員が精神的若しくは身体的な苦痛を与えられ、職員の人格若しくは尊厳が害され、又は職員の勤務環境が害されること

文言的に大きく異なるのは、③の要件について、人事院規則の方では、「職員が精神的若しくは身体的な苦痛を与えられ、職員の人格若しくは尊厳が害され」という要件が加わっている点です。同様の違いは、パワーハラスメントの定義においても存在します。

人事院規則の定義によると、行政サービス利用者等の言動によって職員の人格若しくは尊厳が害された場合には、勤務環境(就業環境)が害されたと言えなくても③の要件を満たすことになります(もっとも具体的にどの程度差異が生じるかは今後の解釈にも委ねられるものと思われます)。

自治体のカスハラ対策において、自治体の内規においてカスハラの定義を人事院規則に揃えた場合には、その定義を前提として対応をすることになります。

⑶ カスハラに関する留意事項について

カスハラ対策法に関して厚労省が出した指針(「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)では、カスハラの内容に関する留意点として、いわゆる障害者差別解消法に基づき、障害者からの求めに対して、負担が過重にならない限度で、必要かつ合理的な配慮をすることを求められています。

これに対し、人事院の通知(「人事院規則10-17(カスタマー・ハラスメントの防止等)の運用について(通知)」)では、別紙第1「カスタマー・ハラスメントに関する問題等に適切に対応するために職員が認識すべき事項についての指針」において、障害者差別解消法に基づく配慮に加え、以下の記載があります。この内容は、自治体においても妥当しますので、自治体のカスハラ対策においてもこの点は留意する必要があります。

4 留意事項

職員は、カスタマー・ハラスメントに関する次の事項について留意しなければならない。

一 カスタマー・ハラスメントは、行政サービスの利用者等とのコミュニケーションの不足が原因や背景となって生じることもあること。

二 職員が担当する行政サービスをよく理解し、行政サービスの利用者等への対応力の向上を図ることは、カスタマー・ハラスメントの被害者になることを防止する上で重要であること。

三 行政サービスの利用者等の権利や、行政サービスが途絶すると行政サービスの利用者等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して適切に対応する必要があること。

3 自治体のカスハラ対策としてすべきこと

9月のコラムでも取り上げた「企業のカスハラ対策の措置義務」として「企業が行うべき事項」は自治体にも当てはまりますが、より具体的には以下のようなことをすべきでしょう。

⑴ 内規、マニュアルの策定

職員がカスハラと思われる被害を受けた際に、どのように対応をするか、自治体としての方針、具体的な対応方法を内規やマニュアルの形で明記します。そこでは少なくとも以下のような点を明示すべきでしょう。

①職員から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと。

②可能な限り職員を一人で対応させないこと。また、必要に応じて当該職員に代わって管理監督者等が対応すること。

③行政サービスの利用者等とのやり取りを録音・録画すること。なお、録音・録画に当たっては個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)等を遵守し、行政サービスの利用者等の個人情報を適切に取り扱うこと。

④職員から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退去を求めたり、電話を切ったりすること。

⑤暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。

⑥現場対応が困難な場合においては、本省庁等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと。

⑦法的な手続が必要な場合には、弁護士へ相談すること。

(上記人事院通知 別紙第1の2より)

現場の職員が判断をしやすいように、例えば④の「一定の時間」について、「原則30分とする」など具体的な数字を定めると良いでしょう。

⑵ 研修の実施

内規、マニュアル等を制定しても、それが具体的に活かされなければ意味がありません。

そこで、カスハラに関する各種法令、内規、マニュアル、裁判例等を踏まえた研修を実施すべきです。研修の中では、知識だけでなく、カスハラの判断の仕方や具体的な対応方法について議論をすると良いでしょう。

⑶ 専門家等の活用

上記⑴の⑤に出てくる「警察」や⑦に出てくる「弁護士」など外部の専門家等を適宜活用しましょう。

特に、弁護士の活用方法としては、上記⑦だけでなく、以下のようなものも考えられます。

・研修講師の依頼

・法的手続に至らない段階での相談

・法的手続もしくはその前段階において、代理人としての対応

・カスハラ該当性の判断への関与

・外部相談窓口等

4 おわりに

自治体にとって、住民福祉の増進は、その存立の第一義的な目的とされ(佐藤文俊『逐条地方自治法』(学陽書房、2025)57頁)、地方自治法2条14号は、「地方公共団体は、その事務を処理するに当っては、住民の福祉の増進に努め・・・なければならない」と規定しています。また、行政サービスが途絶すると行政サービスの利用者等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることは、人事院通知が述べるとおりです。

そうした要請に応えようとすることは大切ですが、一方で、職員に精神的・身体的な苦痛を与えたり、職員の人格・尊厳を害したりする言動は許されるべきではなく、自治体としては、職員をカスハラから守るため、対策を取る必要があります。カスハラ対策法及び人事院規則によって、このことが明確になりました。

池田総合法律事務所には、自治体に関する日常的な相談や、第三者調査委員会委員、自治体職員向け研修講師等に対応できる弁護士がおりますので、カスハラ対策に悩まれる場合には是非ご相談ください。

(川瀬 裕久)