新型コロナウイルス感染症関連情報

新型コロナウイルスの感染拡大(COVID-19)に関連する各種支援制度、様々な法的問題をまとめた特設ページを開設しました。
現在の危機を乗り越えるための参考としてください。
(なお、2020年5月11日時点の情報を元に作成しております。その後の制度変更等がある場合もございますのでご注意ください。)

1-1 各種支援制度(事業者向け)

2020年5月6日現在、国や自治体から様々な支援制度が設けられていますが、以下では、その中でも特に多くの方に有用と思われる支援制度を紹介します。(事業に関わらない個人向けの支援制度については、「各種支援制度(個人向け)」もご参照ください。)

(1)給付金等

  1. 持続化給付金
    売上が前年同月比で50%以上減少している事業者を対象に、中小法人等の法人は200万円、フリーランスを含む個人事業者は100万円を上限に、現金が給付されます。
    参考:持続化給付金(経産省特設ウェブサイト)
  2. 休業要請に対する協力金
    自治体から受けた休業要請に応じて休業や営業時間の短縮をした中小企業・個人事業主等に対して支払われる協力金です。
    協力金の有無、支給条件及び金額等は自治体によって異なりますので、詳細は事業所等の存在する自治体のホームページ等をご確認ください。
    参考:休業要請・協力金について(愛知県ウェブサイト)
  3. 雇用関係
    1. 雇用調整助成金
      事業主が雇用の維持を図るための休業手当を要した費用を助成する制度です。
      4月1日から6月30日までを緊急対応期間として、対象者が新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受ける全業種の事業主に拡大されるなど、支給条件を緩和する特例措置が設けられています。
      参考:雇用調整助成金(厚労省ウェブサイト)
    2. 小学校休業等対応助成金・支援金
      新型コロナウイルスの感染拡大防止策として小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者に、有給の休暇(年次有給休暇を除く。)を取得させた事業主に対する助成金です。
      参考:小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金を創設しました(厚労省ウェブサイト)
      同様の場合で、小学校等に通う子の保護者が労働者でなく、個人で仕事を受けていた場合には、支援金の制度があります。
      参考:新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金(委託を受けて個人で仕事をする方向け)(厚労省ウェブサイト)

(2)支払猶予

  1. 社会保険料の支払猶予
    新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、事業に係る収入に相当の減少があった事業主について、厚生年金保険料や労働保険料などの各種社会保険料の支払猶予の制度があります。
    参考:社会保険料の猶予等について(厚労省ウェブサイト)

(弁護士 川瀬裕久)

1-2 新型コロナウイルス感染症と雇用関係

  1. はじめに

    新型コロナウイルス感染症と雇用関係等について、厚生労働省が詳細なQ&Aを公開しています。
    厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」をご参照ください。

  2. 従業員を休業させる場合

    新型コロナウイルス感染症を原因として、従業員を休業させる場合、休業手当を支払うべき義務があるかどうかは議論のあるところです。
    雇用主に責任がある場合の休業の場合、雇用主は休業期間中の休業手当(平均賃金の60%以上)を支払わなければなりません。
    しかし、政府による緊急事態宣言が出ており、かつ、営業の自粛要請が出ている業種について、在宅勤務も不可能であれば、雇用主に責任がある休業とはいえず、休業手当を支払う必要が無いとも解釈できるためです。
    もっとも、どの法人、個人事業主でも、雇用している従業員を無給のまま休業させ、生活ができないような状況にするのは本意ではないはずですので、可能な限りで休業手当を払うことになるのではないかと思われます。

  3. 従業員を解雇せざるを得ない場合

    法人や個人事業主が、人件費負担をしたままでは事業を残すことができないと判断した場合、従業員を解雇せざるを得ない場合があります。
    こういった場合のことを「整理解雇」と言いますが、整理解雇は裁判例において、4つの要件があって解雇が有効とされています。
    具体的には、①人員整理を行う必要性、②できる限り解雇を回避するための措置を尽くしたか、③解雇労働者の選定基準が客観的・合理的であるか、④労働組合との協議や労働者への説明が行われているか、の4点です。
    新型コロナウイルスの影響で、事業継続が立ちゆかなくなりつつある場合には、整理解雇の有効性は認められやすいと思いますが、従業員に対して例えば「新型コロナウイルスのために解雇します」という説明だけでは④の点が不十分と評価される可能性がありますので、できる限り詳細に説明を行い、説明した事実を書面で残しておくことが必要となります。

(弁護士 小澤尚記(こざわなおき))

1-3 新型コロナウイルス感染症と賃料・テナント料

  1. はじめに

    新型コロナウイルス感染症により、店舗やオフィスを賃貸借している法人・個人事業主では、売上げが十分に立たないため、賃料・テナント料の支払いが苦しくなってきています。
    他方、貸主である大家も、法人や個人事業主であることが多く、その場合、大家も金融機関からの融資の返済や固定資産税等の納税のため、賃料・テナント料の収入がなくなると、経営が立ちゆかなくなることが起こりえます。
    なお、賃料・テナント料については、現在,政府が支援策を検討しているようですので、その動向に注意する必要があります。

  2. 賃借している法人・個人事業主(いわゆる「店子」)の場合

    店舗やオフィスを賃借している法人・個人事業主については、賃貸借契約書上、新型コロナウイルスの影響で賃料を減額する権利があるとは言えないことが多いと思われます。
    そうすると、大家側に対して、現在の経営状況、店舗であれば営業自粛要請の対象業種のために売上げが減少あるいは消滅したことを丁寧に説明して、大家の理解を得て、賃料減額に結びつける必要があります。
    大家側としても、現在の経済情勢から、新しく賃借人を探しても、入居者がなかなか見つからず空室を抱えるリスクがありますので、平時よりも積極的に減額に応じてくれる場合があると思われます。
    まずは、大家に対する現状の丁寧な説明から始める必要があります。

  3. 賃貸している法人・個人事業主(いわゆる「大家」)の場合

    店舗やオフィスを賃貸している法人・個人事業主については、月額で返済している融資の返済額、固定資産税等の納税額、所有物件の維持・メンテナンス費用等のコストから導かれる損益分岐点までであれば、賃料の減額に応じることも検討する必要があります。
    それは、上記のとおり、店子が退去した場合、空室のリスクが生じますので、現在の経済情勢では空室リスクを抱える期間の予測が全く不可能であるためです。
    そこで,例えば,合意によりあらかじめ元の賃料に戻る時期を定めた一時的な減額をするという方法なども考えられるところです。
    そして,賃料の減額に応じた場合には,損金算入が可能となる場合が例示されています(ビル賃貸業者の皆様へ)ので,減額に応じて損金算入し,将来的な税負担を軽減するという考え方もありえます。
    また、店子からの賃料減額については、単純に賃料の減額に応じた場合、新型コロナウイルスの問題が落ち着いたあとも、減額した賃料のままで賃貸借をしたいと言われ、元の賃料水準に戻せないリスクもあります。このリスクを回避するためには、一度、満額での賃料を受領し、そのうちの一部を経営の支援として、大家から店子に支払う(返金する)という方法もあり得ると思われます。この場合,国税庁の例示で損金算入できる場合に当たり得るのかは別途判断する必要があります。

(弁護士 小澤尚記(こざわなおき))

1-4 各種取引・債権回収に関するQ&A

  1. コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言の発令により、事業主、企業の取引も大きな影響を受けています。
    本コラムでは、コロナウイルス感染拡大に端を発した、取引先との契約に関する問題をケースに沿って解説いたします。
    なお、以下の解説は、契約の準拠法が日本法であることが前提です。海外法が準拠法の場合は、以下の解説が妥当するとは限りませんので、契約書をまずはご確認ください。また、2020年4月1日に民法が改正されたので、同日以降に締結した契約には改正民法が適用されます。
  2. ケース1
    【工作機械を製造・販売するメーカーA社が、コロナウイルス感染拡大の影響で部品を海外から輸入できず、取引先のB社に商品を納期までに納入できない。】

    • (1)
      Q1:B社は、納期遅延を理由に、A社に対する損害賠償請求ができるでしょうか?
      A1:まずは、契約書を確認し、契約書に「不可抗力免責条項」(不可抗力による債務不履行については損害賠償を負わないという条項)がある場合は、コロナウイルス感染拡大が不可抗力に該当するか個別具体的に検討します。
      ここまでの感染拡大は、具体的に予見できなかった、という理由付けで、感染拡大は「不可抗力」にあたるという考え方も首肯しうるところです。他方、感染症の拡大はコロナウイルスに限った話ではないので、不可抗力とまでは言えないのではないか、という考え方もあり得ます。取引の背景、個別事情を踏まえて判断することになります。
      次に、不可抗力免責条項がない場合は、納入遅延にA社の責めに帰すべき事由があるかを検討します。この場合も、取引の個別事情を踏まえて判断することになります。
    • (2)
      Q2:B社は、A社との契約を解除できるでしょうか?
      A2:契約の締結が2020年3月31日以前である場合、改正前の民法上、納期遅延にA社の責めに帰すべき事由がなければ、解除はできないと解釈されています。B社は、合意解除の交渉をA社とするか、契約書に特約として、解除条項が定められていればそちらに依拠して契約解除することになります。コロナウイルス感染拡大が、解除条項に定められた事由に該当するかは別途判断が必要です。
      なお、契約の締結が2020年4月1日以降である場合には、改正民法により、債務不履行(納期遅延)につき債権者(B社)の責めに帰すべき事由がない限り、債務不履行があれば、債務者(A社)に責めに帰すべき事由がなくとも、債権者(B社)は契約を解除できるようになりました。
    • (3)
      Q3:納入義務の債務不履行につき、A社にもB社にも責めに帰すべき事由がなく、もはや履行もできない場合、A社の納入義務と、B社の代金支払義務はどうなるのでしょうか?
      A3:改正前の民法では、この場合、納入義務も代金支払義務も消滅します(改正前民法536条1項)。もし、目的物が、B社から特注された品である等特定物という類型に該当する場合は、納入義務は消滅する一方で代金支払義務は残るという取扱いになりますが(改正前民法534条1項)、一般的には、契約書においてこの取扱いは修正されていますので、契約書を確認しましょう。
      改正後の民法では、改正前民法534条1項の規定は削除されました。したがって、納入義務が消滅する一方で、代金支払義務は当然には消滅せず、ただし、B社は代金支払を拒絶できるという取扱いになります。B社が代金支払義務から解放されるには、契約の解除を検討することになります(改正民法541条)。
  3. ケース2
    【A社は、納期に間に合うよう、B社から注文されていた商品を準備していたが、B社が受け入れ体制が整わないとの理由で、受取を拒否した。】

    • Q1:B社は、A社に対し法的な責任を負うでしょうか。
      A1:B社は、商品を受領する義務を原則として負いません。そのため、A社は、B社が受け取らないことをもってただちにB社に対し損害賠償請求や契約解除をすることはできません。ただし、商品が長期保存に耐えられないことが明らかである等の事情によっては、引取義務がB社に認められることもあります。なお、下請代金支払遅延等防止法が適用される取引で、A社が下請事業者に該当する場合は、同法が禁じる受領拒否(同法4条1項1号)にあたらないようにB社は留意する必要があります。
  4. ケース3
    【A社の取引先は、コロナウイルスの感染拡大のあおりを受け、資金繰りが悪化している。そのため、A社は取引先から売掛金を回収できていない。】

    • Q1:どのように売掛金回収をすればいいでしょうか?
      A1:まずは、取引先との交渉です。コロナウイルスの影響で取引先を訪問するのは難しいと思いますが、メールや文書を送り、支払いをまめに催促するのが大切です。訴訟、調停等の法的手続を取る可能性を踏まえ、交渉の日時、内容は記録化しておくと良いです。交渉がうまくいき、支払期限、支払方法等が合意できたら、合意書を作成し、証拠化しておきましょう。
      その他の売掛金回収の方法は、買掛金等の債務をA社が取引先に対し負っている場合は相殺をする(相殺合意書を作成しましょう。)、保証人がいる場合は保証人に対し請求する、保証金を契約時にあずかっている場合は償却する等の方法が考えられます。

(弁護士 藪内遥)

1-5 事業の継続、廃止に向けた手続きについて

  1. 事業の継続に向けた手続き
    • (1) 債権者との交渉
      緊急事態宣言が継続されている現下の状況では、将来に向けた収支見込みが立たないのが実情です。
      企業として体力があり、コロナ禍の中、資金繰りが出来る、あるいは、金融機関その他の債権者からの一時的な返済猶予が得られることが前提となりますが、今後、コロナによる影響が減じ、収支見込みが立つようになり、営業利益がプラスとなった時点では、金融機関などの債権者に対し、長期的な返済猶予や債務(元金、金利)カットの交渉をするということが考えられます。
      その際は、企業のおかれた状況や経営者の個人資産も含め、資産負債の状況などを誠実に開示したうえで、金融機関とのミーティングを重ね、合意に向けた交渉をすることになりますが、全債権者から、猶予にとどまらず、債権カットの合意が得られたときは、金融機関側の無税償却の必要上、その合意内容を一定の司法的ないし準司法的な手続きで確認する必要があります。一般的には、特定調停手続を利用した手続がよく利用されます。
    • (2) M&Aの活用
      また、事業自体は価値や独自性があって買い手があるような場合は、事業や雇用を継続する前提で、第三者に事業を売却して(手法として第二会社を設立するなどの方法があります)、その売買代金で、債権者に債権額に応じて弁済し、支払えない部分は、会社を破産、あるいは、特別清算という法的手続で、清算するという方法もあります。
      その場合には、M&Aなどの手法で廃業を公的に支援する制度があります。詳細は、事業引継ぎ支援センターに関する当事務所の法律コラム(2015年8月11日「中小企業のM&A―『事業引継ぎ支援センター』って何?」を参照ください。
    • (3) 民事再生手続
      債権者との交渉の中で、一部の債権者が債権カットなどについて反対し、全債権者の同意が得られないときは、民事再生手続という法的な手続きが可能です。
      民事再生手続では、手続きの中で再生計画案を提示し(たとえば、債権額の20%を5年で毎月分割弁済し、残りの80%は免除してもらう。)、会社の場合、債権者の頭数の過半数及び債権額で2分の1以上の賛成が得られれば、再生計画案が認可され、その再生計画に従って弁済をすることになります。他方で、この賛成が得られないときは、会社の場合には、申立が棄却され、自動的に、破産手続へ移行する(牽連破産といいます)ことになり、注意が必要です。
      個人の場合は、債務総額が5000万円以下その他の要件がありますが、小規模個人再生という比較的簡易な再生手続きが認められています。この場合は、不同意の債権者が頭数で過半数、債権額で2分の1を超える場合には、計画案は認められませんが、「不同意」でなければよく、積極的に同意してもらう必要まではありません。
      以上のように、大口の債権者が強硬に反対しているときは、慎重に検討する必要があり、その場合には、事業継続を断念して、事業を廃止して、破産などの手続を取ることにならざるを得ません。
  2. 事業の廃止に向けた手続き
    • (1) 債務の弁済が可能な場合
      資産で、債務の弁済が可能な場合は、会社の場合は、会社を解散して、清算手続を取ることになります。
      清算手続の中では、清算人が(それまでの代表者が清算人となるケースが多いと思います)、会社資産を換価し、契約関係については解消し、従業員は解雇し、債務の弁済をしていくことになります。
      資産の換価をした結果、債務の弁済の見込みの立たないときは、そのまま、清算手続きを取ることは出来ず、清算人は破産申立の手続きを取らなくてはいけません。債務の中には、従業員の解雇予告手当や退職金(規定のある場合)も含まれますので、注意が必要です。
    • (2) 債務の弁済が不可能(債務超過)の場合
      債務の弁済が、資産では不可能な場合は、破産手続を取って清算することが考えられます。
  3. 個人保証への対応
    金融機関などからの借り入れに際しては、ほとんど、会社経営者やその親族が連帯保証人となっているため、会社が再生手続や破産手続をとり、債務カットがなされた場合、そのカットされた債権につき、連帯保証人としての責任が残ります。その責任を法的に免れるためには、連帯保証人自身も、破産ないし民事再生の手続きを取ることも一つの方法です。
    そのほか、経営者保証ガイドラインによる処理の運用が定着し始め、前述の特定調停と組み合わせることによる解決手法が広がりつつあります。債権者との合意が前提となりますが、破産と比べて、自由になる財産の範囲が広がり、費用も低額で、経営者にとっては有利な解決方法です。
    詳細については、当事務所のブログ(2015年6月8日「経営者保証ガイドラインの活用について」、2019年2月13日「経営者保証ガイドラインによる解決の手法が広がり始めている~代表者の保証債務からの解放・軽減~」を参照ください。
  4. その他のサイトのご案内
    コロナ問題に特化したものではありませんが、特定調停手続その他の手続きを説明したものとして、法務省のサイト「新型コロナウイルス感染症の影響により借金等の返済が困難となった方へ」があります。
    また、経営者保証ガイドラインの説明をしたものとして、中小企業庁のサイト「経営者保証に関するガイドライン」があります。
  5. ご注意
    以上いろいろな手続きについてご説明をしましたが、いずれの手続ついても、弁護士、税理士、裁判所などの専門家、国家機関の力を借り、ご本人自身にも頑張っていたただいて、苦境を解決していく手法です。手続により所定の費用の高低はありますが、弁護士費用、申立費用、裁判所への予納金などといった形で、金銭が必要となります。最後まで頑張って精神的にも、金銭的にも、全く余裕をなくしてしまった状態では、必要な手続きが取れません。少し先を見越し、早め早めにご相談をすることをお勧めします。

(弁護士 池田伸之)

2-1 各種支援制度(個人向け)

2020年5月6日現在、国や自治体から様々な支援制度が設けられていますが、以下では、その中でも特に多くの方に有用と思われる支援制度を紹介します。

(弁護士 川瀬裕久)

2-2 新型コロナウイルス感染症と雇用関係

  1. はじめに

    新型コロナウイルス感染症と雇用関係等について、厚生労働省が新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)を公開していますので、参考にしてください。
    新型コロナウイルス感染拡大は、労働者にとって多岐にわたる影響を与えますが、目下の生活の糧となる賃金等について、以下、あくまで労働者の立場からの行動指針を説明します。

  2. 緊急事態宣言下の休業中の賃金
    • (1) 緊急事態宣言の5月末まで延長に応じ、愛知県内における外出自粛要請(新型インフルエンザ特措法24条1項)、休業等の協力要請(特措法24条9項)の緊急事態措置も継続されます。また、今後、施設の使用の停止の要請(特措法24条2項)や、そのような要請に応じない場合の指示(特措法45条3項)がなされることもありえます。
      会社に対して賃金の支払いをどの範囲で求められるかは、ご自身の職場の事業にどのような要請等がなされているかによって変わってきます。各業種にどのような要請がなされているかは、愛知県のHP 愛知県新型コロナウイルス感染症対策サイトで確認できます。
    • (2) まず、休業等の要請がなされていない業種の場合、つまり外出自粛要請の影響で休業措置が取られているような場合、働きたいという意思を伝えた上で、賃金全額の支払いを求めるべきです。
      というのも、職場への出勤は不要不急の外出に当たらず、休業措置自体は不可抗力によるものではなく雇用主による経営判断、つまり雇用主側の事情による休業という評価になると考えられるからです。この場合、民法536条2項により、賃金全額の支払いを求めることが可能です。
    • (3) 次に、休業等の協力要請対象事業の場合ですが、この場合もあくまで「要請」であり事業主は休業を強制されるわけではなく「協力」する立場にあると考えることができます。上記の場合と同様、休業措置は、雇用主による経営判断によるものと評価されて、賃金全額の支払いを求められるのが原則です。とはいえ、運転資金等が尽きかけているという現実があるかもしれません。すくなくとも、雇用主に対し雇用調整助成金の活用等を求め、60%の休業手当(労働基準法26 条)の支払いを求めるべきです。
    • (4) 施設の使用の停止の要請がなされたり、営業停止や操業停止をしてしまった場合も、上記と基本的な考え方は同じで、賃金全額の支払いを求めるべきです。とはいえ、このような場合、実際には賃金全額の支払いを受けられない場合があるでしょう。法的にも、民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」まではないと評価され全額の支払いまでは認められない場合もありえます。それでも、労働者は雇用主に対し、休業手当の請求はできます。
  3. 新型コロナウイルスの影響による解雇
    • 新型コロナウイルスの影響で会社の経営状態に影響により労働者を解雇する場合、労働者に責任はなく、「整理解雇」とよばれ、通常の解雇よりも解雇の正当性が厳格に判断されます。
      自粛の影響で一時的に客がいなくなったとか仕事が少なくなって売上が減った程度の理由のみで、簡単に解雇ができるわけではありません。
      具体的には、
      ①人員削減の必要性があること
      ②解雇を回避するための努力が尽くされていること
      ③解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること
      ④事前に使用者が解雇される者へ説明・協議を尽くしていること
      の4つの要件(要素)で正当性が判断されています。
      新型コロナウイルスの影響により事業継続そのものが危ぶまれるような場合には、①や②の要件は新型コロナウイルス感染拡大前と比べて認められやすくなると考えざるをえませんが、③の合理的な人選の基準によるものか、また④適切な説明や手続きが行われたかなどの点で争う余地はあると考えられます。
  4. 新型コロナウイルスの影響による有期雇用契約の雇止め、期間途中の解雇
    • (1) 非正規雇用者が、期間満了とともに契約の更新を雇用主から拒絶されてしまうという事態も今後増加すると考えられます。
      非正規雇用者であっても、過去に反復更新されている場合や、更新を期待することについて合理性がある場合には、解雇の場合と同様に、雇止めに正当な理由、つまり客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要であり(労働契約法19条)、自由な雇止めはできません。
      特に、5年を超えて労働契約を反復更新している場合、いわゆる無期転換ルール(労働契約法18条)を用いて、雇止めを回避する方法もあります。
    • (2) 契約期間の途中で契約を打ち切られる場合は、雇止めではなく、解雇となります。この場合の解雇は、いわゆる正社員の整理解雇と比較しても、約束した契約期間の途中で契約を打ち切ることになるので、より厳格に解雇が規制され「やむを得ない事情」が必要とされています(労働契約法17条1項)。というのも、有期雇用契約の期間の定めは、その期間は原則として雇用を保障するという趣旨であり、解雇は特別の重大な事由が必要であると考えられます。

(弁護士 山下陽平)

2-3 新型コロナウイルスと消費者問題

  1. 新型コロナウイルス感染拡大に伴う消費者被害

    新型コロナウイルス感染拡大による不安感に便乗した消費者トラブルが増加しています。消費者庁(新型コロナウイルス感染症の拡大に対応する際に消費者として御注意いただきたいこと)が注意を呼び掛けているほか、独立行政法人国民生活センターのHP(新型コロナウイルス感染症関連)で、具体的な相談事例が挙げられていますので、参考にしてください。
    政府による布マスクの全戸配布を装ったマスクの送り付けトラブルや、特別定額給付金を装った詐欺が報告されているようです。
    その場で確約や入金を求めるものには応じないようにしましょう。その場で応じないことによって悪質な勧誘がなされる場合には、耳を貸さず、最寄りの消費生活センター等に相談しましょう。少しでも怪しい、おかしいと思うものには、応じないことが重要です。
    おかしいな、と思ったら、消費者ホットライン(局番なしの188番)に電話することをお勧めします。市区町村や都道府県の消費生活センター等の消費生活相談窓口で相談することができます。

  2. 新型コロナウイルス感染拡大による各種契約のキャンセルについて

    旅行や結婚式などの大勢集まるイベントは自粛が求められています。自粛に伴って、キャンセル料の支払いを求められるケースがありえます。どのような条件でキャンセル料が発生するか等については、それぞれの契約や約款によります。
    旅行や結婚式などの期日がどれくらい先かで、キャンセル料は変わってくることが多いでしょうし、中止にするのか延期にするのかで対応が異なることもあるでしょう。
    なお、結婚式場が県の自粛要請等に従って休業した場合にはキャンセル料の支払い義務はありません。結婚式には、会場使用の他にも諸々の契約(引き出物、お花、衣装、カメラマン)が伴うことが多いので、これらすべてに手当をする必要があるので注意が必要です。
    旅行会社が、新型コロナウイルス感染症の影響で渡航できない国・地域を目的地とするツアーの催行を中止しているようですが、この場合、キャンセル料の支払義務はありません。
    ただし、先に述べたように、キャンセルが認められるか否かは、それぞれの契約や約款の内容によりますので、弁護士への早めの相談をお勧めします。

(弁護士 山下陽平)

2-4 住宅ローンや借金が支払えないという方へ

  1. はじめに
    新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、宿泊・飲食サービス業、製造業等の雇用が大幅に減少しており、失業者が急増しています。これにより、収入が減り、住宅ローンやカードローン等の借金の返済が困難になる方が今後増加すると予測されます。
    そこで、住宅ローンやその他の借金の返済が困難となった場合に、どのような制度が利用できるか、以下に解説します。
  2. 住宅ローンについて
    住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)では、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少し、返済が困難になった方のために、以下3つの制度が設けられています。

    • ① 返済期間の延長など
      月収が世帯人数×6万4000円以下であるなどの収入要件を充たす必要がありますが、最長15年の返済期間の延長や、元金据置期間の設定が認められます。
    • ② 一定期間返済額を軽減
      個別に定めた期間内において、毎月の返済額を減らすことが出来ます。ただし、減額期間終了後の返済額及び総返済額は増加しますので、注意が必要です。
    • ③ ボーナス返済の見直し
      ボーナス返済の取り止めや、毎月返済額及びボーナス返済額の割合を変更することができます。

    上記制度を利用するには、住宅ローンを返済している金融機関で、返済方法変更の申請を行う必要があります。まずは、当該金融機関の窓口か住宅金融支援機構の各支店にてご相談ください。
    なお、上記制度の詳細は、下記のリンクをご参照ください。
    今般の新型コロナウイルス感染症の影響によりご返済が困難になっているお客さまへ

  3. 任意整理・破産・個人再生について
    • (1) 任意整理
      借金の返済が困難となった方には、まず、裁判手続きによらないで、債権者との話し合いにより、支払方法を変更した上で支払いを継続することが考えられます。これを任意整理といいます。具体的には、利息分のカットや返済期間の延長などを債権者と取り決め、新たな合意内容に基づいて返済していく方法です。
    • (2) 自己破産
      (1)の任意整理は、毎月の返済額を減額して、返済を継続する方法ですが、返済自体が困難な場合には、自己破産という手続きがあります。
      自己破産とは、裁判所に申し立てを行い、一定の財産を清算して債権者に配当をすることで、残りの債務を免除してもらう手続きです。
      一定の財産が無い場合は、配当手続きを経ずに破産手続きが終了します。
      自己破産を行うには、弁護士費用、申立費用、裁判所の予納金などの費用がかかりますので、早めに弁護士へのご相談をお勧めします。
    • (3) 個人再生
      個人再生は、自己破産と同様、裁判所に申し立てを行う手続きですが、財産の清算は行わず、債務の圧縮のみを行い、債務者の将来の収入から原則3年間で返済していく方法です。
      個人再生手続きには、住宅資金貸付債権に関する特則が設けられており、住宅ローンが残っていても、住宅を手放さず(清算せず)に、住宅ローン以外の債務を圧縮し、原則3年間で返済していくことが可能です。住宅ローンについては、従来どおり(又は返済期間の変更を行って)返済を継続します。
      個人再生についても、自己破産と同様、弁護士費用の他に、申立費用、裁判所の予納金などの費用がかかりますので、早めに弁護士へのご相談をお勧めします。

(弁護士 石田美果)

2-5 緊急時のDV対処法

- 新型コロナウィルス感染拡大防止の陰で「隠れたパンデミック」-

  1. まず電話相談を

    外出自粛や休業等が行われている中で、多くの人は生活不安・ストレスを感じています。そして、隠れたパンデミックと言われるように、ジワジワと拡がっている配偶者等からの暴力(DVドメスティックバイオレンス)の増加や深刻化が懸念されています。この状況は日本に限らず、DVの世界規模での急増に国連の事務総長も警鐘を鳴らしています。
    ひとりで悩まず、相談してください。全国共通相談ナビダイヤル 0570-0-55210へ最寄りの相談窓口に電話が自動転送されます。
    DVを含め女性に対する暴力は、重大な人権侵害であり、いかなる状況にあっても、決して許されるものではありません。被害にあわれた方が、相談し、支援や保護を受けられることが必要です。

  2. 緊急な場合は110番通報も躊躇せず

    弁護士事務所の空いていないとき、24時間体制での心強い相談体制として、最寄りの配偶者暴力相談支援センターに相談できるよう、上記の全国共通の相談ナビダイヤルを設けられています。夫婦の間で「暴力を振るわれている」「辛い」と感じたら、まずは、こちらに相談してください。また、身の安全に不安を感じたら、緊急の場合には、ためらわずに110番通報をしてください。
    今回、政府は、今後のDVの深刻化に備えて相談窓口を拡充することを4月7日に閣議決定した「緊急経済対策」に盛り込みました。深夜・休日にも対応できる相談窓口の設置を行うとともに、家庭内で電話をしづらい環境にいる方も相談できるよう、SNSやメールによる相談を行うとしています。外国語相談も5月1日からSNSで対応。英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、タガログ語、タイ語、ベトナム語を対象としています。宿泊場所の提供や行政手続きに関し、民間の支援団体やシェルターを紹介してもらえます。

  3. 保護命令は強力な武器

    配偶者や同棲している交際相手からの身体的暴力や生命・身体に対する脅迫を受けた場合、同じことが起こらないように、裁判所に対して、相手がご自分や子どもに接近しないように制限する保護命令を申し立てることができます。保護命令は5つのタイプがあります。
    ① 接近禁止命令
    ② 退去命令
    ③ 電話等禁止命令
    ④ 子への接近禁止命令
    ⑤ 親族等への接近禁止命令
    です。
    申立ての前には、警察などの機関に相談したという事実が必要です。警察への相談は、相談ホットライン#9110です。警察や配偶者暴力相談センターに相談をしなかったという場合には、公証人役場で宣誓供述書を作成してもらうという方法もあります。保護命令の申立ては、裁判所の手数料と予納郵便切手代の数千円がかかります。
    裁判所は、相手を審問に呼び出して言渡しをします。来なければ、決定書が送達され、受け取りを拒否した場合にも書留送達という方法で送られるため、受け取りを拒否しても送達済みとして使われます。後日の離婚訴訟では、大きな武器となります。
    モラルハラスメントのケースでは、要件を欠くため保護命令に直ちに行き着くことはできませんが、積み重なる事実の証明が出来たり、あるいは、配偶者や子どもに支払うべき生活費(婚姻費用)を渡そうとしないケースでは、大いに離婚理由となりえます。

  4. DV被害者が一人一律の10万円を受け取る方法

    政府から支給される特別定額給付金については、住民票と異なる場所に住むDV被害者が別の住所で受け取るための申し出ができます。また、世帯主として一括して先に受け取られてしまった場合には、被害者に10万円を支払ったうえで世帯主に返金を求める方法がとられることになりました。
    参考:特別な配慮を要する方への対応(総務省)

(弁護士 池田桂子)

2-6 相続・遺言

(当事務所ホームページ「取扱業務」の「相続・遺言・事業承継」もご参照ください。)

  • (1) 相続手続の留意点
    1. 期限のある手続
      相続に関連する手続のうち、以下の手続については期限が定められています。
      新型コロナウイルス感染拡大の影響により期限内に手続ができそうにない場合には、期限延長の手続をしておく必要があります。なお、手続をすれば必ず延長が認められるという訳ではありませんのでご留意ください。
    2. 相続放棄や限定承認
      相続放棄とは、相続人が亡くなった被相続人の財産や債務を引き継がないこと、限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を引き継ぐことをいいます。

      • ① 期限
        相続放棄や限定承認をする場合には、原則として,「自己のために相続の開始があったこと(被相続人が亡くなったことと、それにより自分が相続人となったこと)を知った時」から3か月以内に、家庭裁判所で申述という手続をしなくてはなりません。
      • ② 延長の手続
        被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に期間延長の申立てをする必要があります。
        詳しい手続は裁判所の以下のウェブサイト(「4 期間伸長」)をご確認ください。
        主な家事事件の手続と申立書式等
    3. 準確定申告
      亡くなった被相続人が生前に事業収入を得ていた等、確定申告を要する場合には、相続人が確定申告をする必要があります(準確定申告)。

      • ① 延長の手続
        申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
      • ② 期限
        新型コロナウイルス感染拡大の影響により、期限内に申告することが困難な場合には、個別に期限延長の申請ができます。申請の方法としては、別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延⻑申請」と付記する等の簡易な方法で足りるとされています。
        参照:新型コロナウイルス感染症に関する対応等について(国税庁ウェブサイト)
        ※詳細については、税務署もしくは税理士にご確認ください。
    4. 相続税申告・納税
      亡くなった人から各相続人等が相続や遺贈などにより取得した財産の価額の合計額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合、相続税の申告をする必要があります。

      • ① 期限
        申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
      • ② 延長の手続
        新型コロナウイルス感染拡大の影響により、相続人等が期限までに申告・納付ができないやむを得ない理由がある場合には、個別に期限延長を申請することができます。申請の方法としては、別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と付記する方法で足りるとされています。
        なお、相続人等が複数いる場合に、個別の申請により申告期限等が延長されるのは申請を行った者のみとなり、他の相続人等の申告期限等は延長されないため注意が必要です。
        参照:新型コロナウイルス感染症に関する対応等について(国税庁ウェブサイト)
        ※詳細については、税務署もしくは税理士にご確認ください。
      • ③ 特に期限のない手続
        遺産分割協議や相続登記手続については、特に期限は設けられていません。そのため、新型コロナウイルス感染拡大の影響がある程度治まってから協議をしたりすることも可能です。
        もっとも、遺産分割協議がまとまらないうちに相続人のうちの誰かが認知症になったり亡くなったりすると手続が煩雑となりますので、可能な限り早めに手続をすることをおすすめします。
  • (2) 遺言の作成

    遺言書には、ご自宅でも作成できる自筆証書遺言と公証役場で作成する公正証書遺言があります。
    後者を作成するには、原則として公証役場に行く必要がありますので、緊急事態宣言の中、外出をしたくないという方は、まずは自筆証書遺言の作成をおすすめします。
    自筆証書遺言を作成する際は、以下の点に注意が必要です。

      1. ① 自筆証書遺言には、遺言者の署名・押印、日付の記載が必要です。

     

      1. ② 「自筆」とあるとおり、遺言をする人が全文を自筆で書く必要があります。パソコンなどで作成した遺言書は無効になりますので注意が必要です。
        ただし、平成31年1月13日以降に作成した自筆証書遺言については、相続財産の全部または一部の目録(財産目録)に限り、パソコン等で作成することが可能となりました。その場合、財産目録の各頁に署名押印をする必要があります。

     

    1. ③ 自筆証書遺言は、誰にも知られずに作成することが可能な反面、遺言者が亡くなった時点で発見されない可能性があります。そのため、令和2年7月10日以降は、法務局で自筆証書遺言を保管してもらうことができます。
      自筆証書遺言は比較的手軽に作れる一方で、条件を満たさないと無効になってしまうおそれがあります。また、自筆証書遺言は、遺言者が亡くなった段階で、裁判所において遺言書の内容を確認してもらう検認(けんにん)という手続が必要になるなど、公正証書遺言と比べて後々手間がかかるという一面もあります。
      そのため、ひとまず自筆証書遺言を作成された方でも、公証役場へ行けるようになった段階で改めて公正証書遺言を作成することをおすすめします。
      また、自筆証書遺言にしても公正証書遺言にしても、肝心なのはその内容です。遺言書の存在がかえって紛争の原因とならないようご注意ください。

(弁護士 川瀬裕久)