「3つのe」裁判手続のIT化の現在と未来、どこまで進む?

平成30年3月30日に内閣府から「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-3つのeの実現に向けて-」が公表されました。今回の取りまとめは、平成29年6月の閣議決定に基づく「未来投資戦略2017」を受けたもので、同年10月以降開催された「裁判手続等のIT化検討会」によるものです。政府主導ではありますが、法務省が関係省庁として、また最高裁がオブザーバーとして参加しました。

 

今年は、平成10年に現在の民事訴訟法が施行されて20年を迎えます。平成16年に民事訴訟法132条の1項が新設され、民事訴訟手続等のオンライン化を可能にする通則規定が設けられたのですが、その具体化は進んでいませんでした。一連の司法改革の中で、裁判手続においても、情報通信技術の積極的な利用が望まれるところです。

 

欧米や韓国では裁判手続のIT化は結構進められていますが、これに比べて、日本では遅れている印象です。とはいえ、日本でも既に平成18年には、支払督促手続きにオンライン手続が導入され、年間9万件以上利用されています。しかし、その他の分野では、オンライン化はなされていません。

 

IT化のメリットは、迅速化・効率化、時間的・経済的な負担の軽減、紙媒体をやめることによる記録保管等のコストの軽減など、いろいろな点が挙げられます。メリットを考えるにあたって、日本では本人訴訟の割合が高いため、司法アクセスの改善が重要であることや、代理人に依頼してもなお分かり易い手続の理解が望まれることなどから、利用者目線でのIT化を強く意識しなければならないと思います。

 

3つのeとは、①e提出、e‐filing、②e法廷、e‐court、③e事件管理、e‐case managementです。訴状の裁判所への提出や訴え提起の手数料の納付など、必要性は高いといえます。裁判費用の納付は、現在、通常、印紙による納付ですが、100万円以上の場合には、現金を裁判所の窓口で納付することもできます。しかし、ネットバンキングやクレジットカード等を利用したオンラインでの電子決済は行われていません。

 

現在は、一旦、訴状が受け付けられて、裁判手続が開始されますと、代理人間や代理人と裁判所との書面のやり取りは、ファクスで行われています。また、電話会議も行われています。しかし、裁判所からの判決書など重要な書類を渡すときには、特別送達という郵送によります。電子化されれば、裁判所の専用システムへの判決情報のアップロードやその旨の当事者への通知、当事者によるシステムからのダウンロードも可能になるかもしれません。

また、技術的には、主張や証拠に随時オンラインアクセスができたり、裁判期日をオンラインで調整するなどの事件管理やweb会議などを利用して、裁判の過程を透明化する方向に進んでいく可能性があります。

 

もっとも、IT化を積極的に進めるためには、本人確認や改ざんや漏洩防止などを万全にするための情報セキュリティー対策や様々なツールの検証作業が欠かせません。

裁判実務を中心とする訴訟関連業務に大きな影響を及ぼす裁判のIT化の議論は急速に進んでいく可能性もあります。いろいろな方面からの意見が出されていくと思いますが、利用者目線は忘れないようにしたいものです。<池田桂子>