「境界特定制度」をご存知ですか

はじめてこの制度の名前を耳にする人も多いことと思いますが、既に制度が発足してから10年が経過しています。これは、土地の所有者等からの法務局への申請にもとづき、筆界特定登記官という法務局の職員が、筆界調査委員の調査に基づく意見や関係者の意見を聞いたうえで、現地における土地の筆界の位置(土地の境界線)について判断をする制度です。

 

土地の境界についての争いが生じると、土地の売買も事実上できなくなり、従来は、裁判所に対して、境界確定訴訟を提起して、裁判所の判断をあおぐことしか方法がありませんでした。もっとも、裁判所も、境界確定についての専門的な知識や経験があるわけではなく、証拠も限られている中、何らかの判断を下さるをえず、大変困難な訴訟となることが通常です。また、訴訟に至るような例では、双方の隣人関係も悪化して、感情的対立が深刻で、裁判所の判断が示されても一審で確定せず、控訴され、また、時には、最高裁まで上告といった展開になってしまうことも稀ではなく、コストも時間もかかっていました。

 

この制度の利用を求める人は、申請手数料と測量費用の負担はありますが(申請手数料は双方の土地の固定資産税評価額に準拠して計算されますが、それほどの金額にはなりませんが、測量費用は50~80万円ぐらいかかることが多いということです。)、あとは、法務局の職員で資料収集等をして、筆界に関する専門的知識を背景に、判断が示されることになります。年間2500件程度の利用があり(利用される法務局に大きな偏りがありますが)、平均審理期間は8.8ヶ月、3分の2は1年以内に終了しているとのことです。

 

訴訟と比べれば、比較的低コストで早期に専門的見地から判断が示される利点はありますが、判断としての拘束力はなく、行政処分としての効力もないので、その判断に不服であれば、別途、筆界確定の訴訟を起こすことができます。訴訟になれば、この筆界特定手続の記録を取り寄せて、裁判所に提出することも出来、事実上、証拠としての重要な価値を有しているものです。

 

但し、この制度を利用しても、隣人関係の改善まではかれるわけではありません。境界争いによる対立がお互いの人格攻撃にエスカレートしている例も多く、そうなってしまうと、隣同士で、終始緊張関係を続けることになり、お互い不幸です。そうならないように、境界線が不明確になった場合には、一方的な主張を繰り返すのではなく、お互い相手の言い分も充分聞き、冷静に話し合いをし解決していく努力がなにより必要です。 (池田伸之)