「自炊」はダメ?書籍読み取り代行サービスの行方 

インターネットの通販サイトで電子書籍を買い求める方も少しずつ増えているようです。日本でも数社が新刊本のすべてを電子化すると発表しています。手元に自分の好きな本を、あるいは好きな部分だけ、軽々と情報として持ち歩けるとすれば、それは便利です。しかし、まだまだすべての本が電子化されているわけではありません。

 

書籍をページ毎にスキャナーなどでコンピューターに取り込み、電子ファイル化する、いわゆる「自炊」行為を業者も、昨年から増え、100社に上ると見られています。

 

そのような中、昨年12月、書籍を個人利用者が電子化する「自炊」行為の代行は著作権法に違反するとして、浅田次郎さん、東野圭吾さん、弘兼憲史さんら小説家や漫画家7人が、代行業者2社に、代行事業の差し止めを求めて東京地裁に提訴しました。代行業者は、個人利用者の注文を受け、著作者の許諾を得ずに、1冊数百円で「自炊」を行っていることをとらえて、利用者が個人的な目的で自炊を行う場合は、著作権法第30条で「私的使用のための複製」として認められているが、「業者が大規模に、ユーザーの発注を募ってスキャンを行う事業は複製権の侵害」と指摘。さらに事業者が大量に制作した電子ファイルがインターネットで拡散するなど、作家や出版社に深刻な影響を及ぼすと主張しています。

 

 

現在の著作権法の下では、私的使用目的の複製は許容されており(同法30条1項)、私的使用にとどまる限りは著作権侵害の問題を生じません。自分の蔵書を「自炊」することは問題がありません。しかし、業者に「自炊」を代行させていることの適法性については、意見が分かれるところだと思います。

 

電子化された作品は容易にコピーされ、海賊版が大量に流通しかねないことはその通りです。自炊代行が横行する背景事情には、利用者にとって欲しい電子書籍の点数が、少ないという現状があります。上記の事件の結論が出たとしても、日本の電子書籍市場のサービスの整備、単価の適切な設定など、電子コピーが容易な時代に対応した新しい著作権のあり方を検討する必要が急がれています。

 

例えば、アメリカでは、グーグル社がいろいろな大学の図書館と提携して、その蔵書をスキャンし、データベースを作って、インターネット上に書籍の検索サービス(検索結果をスニペット表示)を提供していますが、これに対して、米国作家協会ほかからグーグルに対して,著作権侵害訴訟が起こされましたことがありました。大学の図書館の蔵書の著作権者全員を原告とする集団訴訟(クラス・アクション)として提起されたことでも注目を浴びました。2008年10月に原・被告間で成立した和解は、大学図書館の蔵書の著作権者ばかりでなく、およそ地球上で出版されている書籍に対してアメリカ法上著作権を持っている人すべてにまで、極めて広い範囲に拡大され、原告集団に属しているすべての人が、異議を申し立てない限り(オプト・アウト方式)、その書籍をインターネットで全文配信するライセンスをグーグルに与えるというもので、昨年3月アメリカの裁判所の和解の効力を与えませんでした。

 

新しいデジタル情報の時代に入り、著作物を電子データに置き換えることから招来される問題は、デジタル情報に適した権利の管理が求められていると思われます。<池田桂子>