お客様のための便宜を図る業者の責任とは?-ネット配信録画トラブル
インターネットの発達によって、ネット上配信される画像、映像を巡り、著作権法上多くの問題が発生しています。なかでも、放送されているTV番組を録画して、特定のお客に配信するというケースで最高裁の判断が待たれています。
ずいぶん前のことですが、カラオケスナック店で日本音楽著作権協会(JASRAC)の許可を得ないで、有料でカラオケ機器を利用させていた経営者に対し、損害賠償等の請求がなされた事件がありました。最高裁は昭和63年にカラオケ機器の支配管理をし、利益を上げているのはスナックの経営者であるとして、この二つの要素に着目して、直接操作していないスナックの経営者も「規範的に」利用行為の主体と認定しました。カラオケ法理という考え方が定着したかのようにその後もこうした考え方が裁判などで使われてきました。
この判決自体は法律関係者の間では概ね妥当なものと考えられていたのですが、直接的な著作権の侵害者だけでなく、ツールを開発・提供した者についても著作権侵害を認め、損害賠償の支払いやサービスの停止を命じる判決が出されていることから、この法理の拡大解釈により著作権侵害の範囲が必要以上に広く認定され、ソフトの開発等に伴うリスクが高まるのではないか、と危惧する意見も出されていました。
デジタル化・ネットワーク化が進む時代においても著作権保護を確保するために、著作権侵害を効果的に拡大防止すべきと同時に、著作物の利用の促進を図るという観点から、物理的利用行為によらずに著作権侵害に関与している者のうち、いかなる範囲の者を差止請求の範囲とすべきかについて、立法措置が望まれているところです。
ここ数年のインターネット回線を利用してTV放送を視聴可能にする様々なサービスがなされ、録画機器が売り出されていますが、それゆえに法廷に持ち込まれるトラブルも見受けられ、勝負は分かれています。
インターネット回線を経由してTV放送が見られる録画ネットというサービス提供者に対して、TV放送事業者が複製の差し止め(著作隣接侵害差止仮処分命令申立て)を争った事件で、H16年東京地裁、H17年知財高裁ともこれを認めました。―録画ネット事件
集合住宅向けにTV放送番組用ハードディスクビデオレコーダーシステムの販売者に対して、著作権―複製権および公衆送信権、著作隣接権―複製権および送信可能化権を侵害すると争われ、使用と販売の差し止め、廃棄を求めた事件では、H17年大阪地裁、H19年大阪高裁ともに差し止めを認めました。―選撮見録事件
ソニー製のロケーションフリーTVの構成機器であるベースステーションを用い、ユーザーがインターネットを通じてテレビ番組を視聴できるようにした、そのサービス提供会社に対して、送信可能化行為および公衆送信行為の差止めと損害賠償を求めた事件で、「特定の一主体に送信しているといざわるを得ないから」「本件サービスのおける個々のベースステーションは、『自動公衆送信装置』に当たらず、債務者の行為は、著作権法2条1項9号の5に規定する送信可能化行為に当たらないというべきである」と判示し、H20年6月東京地裁は棄却し、H21年1月知財高裁も棄却しました。―まねきTV・ロケフリ事件
この事件は、ロケフリが家電量販店でごく普通に販売されていて、海外に赴任する人や、民放局の少ない地方に転勤する人などに購入されていたことや、民放テレビ局とNHKが訴えていたもので、まねきTVを運営していた店側の全面勝訴となって、話題になりました。
H20年5月東京地裁、H21年1月知財高裁で、著作権および著作隣接権(録音、録画による複製権)を争った事件があり、これも注目を集めました。ハードディスクレコーダー2台1組のうち日本国内に設置した1台でTV放送を受信し、インターネットにより録画データを転送して、海外にいる利用者が貸与されたかまたは譲渡されたもう一台で視聴を可能となるサービスの提供が争われ、東京地裁では侵害が認められたが、高裁では侵害されないとの判断が示されました。―ロクラクⅡ親子機能付きビデオデッキ事件
この事件で、東京地裁は、カラオケ法理を引きながら、要素を6つに分けて分析し録画指示が利用者の手元にある子機でなされるにしても、親機の設置管理は有力な要素で業者の実質的な支配下にあると判断したのに対して、高裁は6つの要素、①サービスの目的②機器の設置・管理③親機と子機の通信管理④複製可能な番組の範囲⑤複製のための環境整備⑥業者の経済的利益を検討して、「もっぱら利用者が子機を操作することによってのみ実行される」「業者が実質的に支配しているとはいえない」として、請求を棄却しました。
そもそも著作権30条1項で、私的領域で行われる複製に限定して適法としたのは、そうした私的利用が微々たるもので権利者に与える影響は少ない、捕捉も困難などという理由でした。業者を利用する、業者が提供するサービスは、個人利用の環境提供のお手伝いなのか、事業として放送行為を利用しているのか、従来のカラオケ法理だけでは、うまくゆかないあたりをどう説明するのか難しいところです。
法律家としても、業者さんから対処法を聞かれたら、当面どうしましょう、と悩むところではあるのです。(池田桂子)