これからの経営者報酬の設計について

1.はじめに

従来、日本企業の役員報酬は欧米に比べて、水準が低く、業績との連動もあまり考慮されていない、と言われてきました。一旦就任すると、定められた在任年数や役員定年までは確実に在任し続けるといった状況が常態化している背景にあります。最近は、経営者が新しいビジネスに果敢に取り組むためのインセンティブを働かせるため、金銭的・非金銭的の両面を含め、見直しが図られています。

企業統治の強化の観点から、役員報酬の設計と開示の在り方が、上場企業はもとより、中小企業においても、検討課題に挙がっているこの頃、見直すとすればどのようなことを検討すべきなのか、整理してみたいと思います。

2.会社法の規定は

会社法は、役員報酬について、決定する手続きと情報開示の二つの面から規制を置いています。役員報酬は、定款又は株主総会の決議(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会の決議)を必要としています。また、事業報告において重要な事項の記載を必要とするとしています。これは取締役自らがお手盛りをすることのないように、また、自己検証をするための規制です。もっとも、会社法は、報酬の種類や支給財源については特段の規制を置いていません。

3.CGコードは

そのような中、2015年6月に東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンスコード(CGコード)において、上場企業を対象に、経営者報酬の設計、決定プロセス及び開示の観点から指針が示されました。設計の面では、持続的な成長に向けてインセンティブが働くように、中長期的な業績と連動する報酬や自社株報酬の割合を適切に設定すべきとされました。

また、プロセスの面では、独立社外取締役の主体的な関与、報酬委員会の設置が養成され、情報発信も行うべきであると盛り込まれました。

金融庁が設置したスチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議(2018年3月)では、実効的な「コンプライ・オア・エクスプレイン」を促すとして、「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表し、さらに2021年6月に改訂され、経営陣の報酬制度を、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた健全なインセンティブとして機能するように設計し、適切に具体的な報酬額を決定するための客観性・透明性のある手続きが確立されているか、手続きを実効的なものにするために、独立した報酬委員会が必要な権限を備え、活用されるように要請しています。

4.株式報酬の定め方

(1)その後、株式報酬型ストップオプションや株式交付信託と言って実務的な工夫がなされたり、譲渡制限付株式の付与の方法として、役員に業績に連動した将来の金銭報酬債権を付与し、役員が債権を現物出資して払い込みを行い、会社が特定譲渡制限付株式を発行する方法が実務的に行われるようになりました。いずれにせよ、決議すべき事項が詳細に定められ、取締役に報酬として株式を直接交付することが技術的には可能になりました。

(2)固定報酬部分、短期のインセンティブが働く部分(例えば、賞与)、長期のインセンティブが働く部分の組み合わせを工夫しながら、設計が行われています。

賞与の在り方も、業績指標や個人業績の目標を明確に定め、達成度合いによって賞与額が決定される、業績目標においても売上高、営業利益が取り上げられることが多いものの、ESGsの要素を取り入れる動きも少なくありません。

長期的な報酬としては、企業価値を意識して自社株報酬を用いることも一般的になってきました。

5.まとめ

また、最近では、人材確保のために、従業員に株で報酬を渡す企業も、国内に500社を越えているようです。従業員が株の価値向上を享受できるような自社株の割り当て(一定期間売却制限付き)といったことも、今後増えてくるでしょう。

株主と企業価値を共有し、かつ経営者への適正な監督が図られているかの指標として、報酬のあり方についてのステークホルダーの関心は、上場企業でなくとも、ますます高まっていると考えられます。業績との連動は避けては通れないところであり、現にある報酬制度の変更を検討してみてはいかがでしょうか。もっとも新しい報酬制度の導入に当たっては、いろいろな点での検討が必要です。例えば、不正会計がなされたり、投資に伴なう巨額損失や大幅な業績下方修正、不祥事の発生などがあった場合には、既に支払い済みの役員報酬を強制的に返還させるクローバック条項を定めることは必須事項です。工夫をしつつ、新たな報酬制度を導入することは企業の目標達成のための一助となります。

<池田桂子>