こんな程度のことで?の感覚では許されない賄賂~対岸の火事ではない英国賄賂法~
円高で日本企業の中には、生産、販売拠点を海外に移そうとお考えの企業は多いと思います。現地での情報収集は大切ですが、国内本部からの出向者の知らないところで、例えば、契約しているコンサルタントや代理店が公務員や取引先に賄賂を渡していたら、日本の本社が処罰対象になることがありうるのです。ことさら便宜を払ってもらおうと言った意味の賄賂でないチップも処罰対象となれば、いい加減には済まされません。
1977年に制定されたアメリカ海外腐敗行為防止法(FCPA)による摘発、処罰の件数が昨年は80件に上ったそうです。日本企業も摘発されています。日揮がナイジェリアで米国などと共同で参画したLNGのプラント施設で政府関係者に贈賄行為をしたとして、アメリカ司法省と約180億円和解金を支払い、起訴猶予の司法取引をしたといったことが報道された例があります。
摘発例はきかないものの、日本の法律でも、外国公務員等に対し営業上の不正の利益を得るために不正の利益供与、つまり賄賂の提供やそうした申し込みについて、日本人の国外犯も処罰対象としています(不正競争防止法18条、21条2項6号、同条6項、刑法3条)。
今年7月に施行された英国賄賂法改正は、さらに厳しく贈収賄を規制しようとしています。英国企業だけでなく、英国でビジネスの一部をする企業も対象となり、当然、日本企業も対象となります。日本の不正競争防止法は、国外での贈賄行為は日本企業、日本国民に限定していることと比べても、大変厳しいものです。
注意すべき英国賄賂法の特徴としては、①個人の責任だけでなく、会社の刑事責任を規定していること 、②英国内だけでなく世界中で発生した贈賄行為が処罰対象となること 、③贈賄の対象は、英国の公務員、英国以外の外国の公務員のほか、私人に対する贈賄も処罰対象となること 、④外国公務員への贈賄については例外規定を設けていないこと 、⑤贈収賄の対象となるビジネスが英国と関係ないものであっても、英国において事業拠点があるだけで、会社の刑事責任が発生すること、⑥企業が贈賄を防止できなかったことに基づき刑事責任を問われた場合、企業側に唯一許される防禦方法は、贈賄防止のための「適切な手続を実施」していたことを企業側で反証すること、などです。個人については10年以下の禁固または罰金、法人について金額の制限ない罰金と法定刑も重く、公訴時効の概念もないので、見方によっては世界で最も厳しい贈賄規制法とも言われます。
企業が免責されるのは、賄賂を防止するための適切な仕組み」していたかによります。自社が晒されている贈賄リスクの性質と範囲について定期的かつ総合的にアセスメントすることが必要ですし、贈賄は許されないという経営陣の考えを社内外に伝えることも不可欠であると、英国賄賂法は規定しています。賄賂企業とならないガバナンスは重要です。(池田桂子)