デジタル時代の契約書と文書管理について
昨今のデジタル技術の普及に加え、コロナ禍におけるリモートワークの推進により、契約書や文書の電子化が急速に進んでいます。
本コラムでは、電子契約や電子文書を扱う上での法的な注意点をお伝えします。
1 電子契約について
(1)電子契約とは
電子契約とは、「電子的に作成した契約書を、インターネットなどの通信回線を用いて契約の相手方へ開示し、契約内容への合意の意思表示として、契約当事者の電子署名を付与することにより契約の締結を行うもの」(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)電子契約委員会「電子契約活用ガイドライン 2019年5月 Ver.1.0」より)とされています。
紙の契約書の場合、当事者が合意していることを示すために署名や押印がなされますが、WordやPDFなどで電子的に作成された契約書には署名や押印をすることができません。そこで、電子契約においては、一定の暗号措置を用いて作成者を表示する「電子署名」を付与します。
(2)電子契約の証拠としての価値
契約書には、後日、紛争になったときに、契約の存在及びその内容の証拠となる機能があります。
電子契約についても、証拠としての価値は紙の契約書と変わりません。裁判等で紛争となった際には、電子契約を証拠として提出することになります。
電子契約を証拠として提出する際に、成立の真正(電子契約が契約当事者として記載されている人の意思に基づいて作成されているか)が問題となることがあります。
これについては、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)という法律が、一定の場合に成立の真正が推定されることを規定しています(同法3条)。
電子契約を扱う際には、当該電子契約が同法の適用を受けるものなのか、留意する必要があります(詳しくは、コラム「立会人型電子契約に関する論点」をご覧ください)。
2 電子文書について
(1)電子文書とは
電子文書とは、「電子的な手段によって作成された文書情報」をいいます(JIS Z 6015:2016「文書情報マネジメント用語」より)。Wordファイル、Excelファイルなどがこれにあたります。
類似の言葉として「電子化文書」というものがあります。これは、「スキャナなど文書読取り装置を利用して書面を画像情報として電子化した文書情報」と定義され(JIS Z 6015:2016「文書情報マネジメント用語」より)、紙の文書をスキャナで読み込んで作成されたPDFなどがこれにあたります。
いずれも、紙媒体と比較して、
・保管場所を取らず保管コストが低減される
・文書内の情報の検索が容易
というようなメリットがあります。
一方で、
・複製が容易で、短時間の内に広範囲に情報が流出する可能性がある
・修正や改ざんの痕跡が残りにくい
といったデメリットも存在します。
(2)電子文書の管理
ア 文書管理の必要性
文書管理の必要性には大きく2つの方向性が考えられます。
一つは文書を適切に管理することにより、そこに記載された情報に適時にアクセスできるようにすることです。
もう一つは、法定保存書類(法律上、一定期間保存することが義務づけられている書類)の管理やリスク管理といったコンプライアンスの側面からの必要性です。
イ 電子文書の管理について考えるべきこと
(ア)情報へのアクセスやデータ利用の観点から
(1)で述べたとおり、電子文書には、「文書内の情報の検索が容易」であるというメリットがあります。業務上の文書を電子文書で保存、管理することにより、必要な書類に瞬時にアクセスできたり、過去の文書から得られる情報をデータとして活用したりすることが考えられます。
このような電子文書の特性を最大限生かすためには、例えば以下のような工夫をすることが考えられます。
①極力全ての文書を紙ではなく電子文書にする。
紙の文書と電子文書が混在していると、検索が容易、情報をデータとして活用といったメリットが生かせなくなってしまいます。もっとも、全ての文書を電子化してしまって良いかという点については、後述(イ)①・②で述べる点のついて注意が必要です。
②予め検索しやすい形式で保存する。
電子文書の保存場所を一定にする、ファイル名称の付け方に一定のルールを設けるなどしておくと、後々、情報の検索や利用が容易になります。
(イ)コンプライアンスの側面から
コンプライアンスの側面からは、以下のような留意点があります。
①法定保存文書については、電子化の可否、電子化の要件などを確認し、その要件を満たしておく必要があります。
②契約書が紙で作成されている場合の原本など、将来、紛争化したときの証拠資料として、紙文書もあわせて保存しておく必要がある場合があります。
③(1)のデメリットで述べたとおり、電子文書は、紙の文書と比較して、流出や改ざんの危険性が高いと考えられることから、技術的なセキュリティ対策をするとともに、文書の重要性・秘密性に応じてアクセス権限者を制限するなど、文書の性質に応じた管理をする必要があります。
④文書の管理にあたっては、文書情報管理規程を設けて文書管理体制や管理方法等を決めておくことが有用です。既に社内に文書情報管理規程が存在する場合、それが電子文書に対応していない可能性もありますので、見直しを図る必要があります。
電子契約の導入や文書管理の見直しをご検討の方は、池田総合法律事務所にご相談ください。
<川瀬裕久>