不正競争防止法を意識していますか
他人の商品や営業の表示等を模倣したり、顧客情報などを盗んだりするなど、不正な手段で売上を伸ばそうとする行為は、不正競争防止法によって禁止されています。
しかし、禁止されている行為を知らなければ、不正な手段だと知らずに当該行為を行ってしまう場合もあるかもしれません。不正競争防止法は、企業活動で意識することの必要な法律であると言えます。
そこで、不正競争防止法ではどのような行為が禁止されているのか、以下条文に沿って、過去の著名なケースを中心にご紹介します。
1.周知表示混同惹起行為(第2条第1項第1号、第21条第2項第1号)
他人の商品・営業の表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為が禁止されています。
過去の裁判例では、ソニー(株)の有名な表示である「ウオークマン」と同一の表示を看板等に使用したり「有限会社ウォークマン」という商号として使用した業者に対し、その表示の使用禁止及び商号の抹消請求が認められました(千葉地判平8.4.17)。
また、大阪の有名かに料理屋の名物「動くかに看板」と類似した「かに看板」を使用した同業者に対し、看板の使用禁止及び損害賠償が認められました(大阪地判昭62.5.27)。
2.著名表示冒用行為(第2条第1項第2号・第21条第2項第2号)
他人の商品・営業の表示として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為が禁止されています。
過去の裁判例では、三菱の名称及び三菱標章(スリーダイヤのマーク)が、企業グループである三菱グループ及びこれに属する企業を示すものとして著名であるとして、同名称及びマークを使用した信販会社、建設会社や投資ファンドに対し使用を差し止めました(三菱信販事件-知財高判平22.7.28)(三菱ホーム事件-東京地判平14.7.18)(三菱クオンタムファンド事件-東京地判平14.4.25)。
また、任天堂の「MARIOKART」「マリオ」等の表示と類似する「MariCar」、「MARICAR」、「maricar」等の標章を営業上使用している会社に対して、著名表示冒用行為に当たるとして、使用差止め等と損害賠償が命じられました(マリカー事件-知財高判令2.1.29)。
3.形態模倣商品の提供行為(第2条第1項第3号・第21条第2項第3号)
他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為が禁止されています。
同一の形態の商品であっても、自ら独自に創作した場合は該当しません。また、商品の機能を確保するために不可欠な形態が同一である場合も本条に該当しません。
4.営業秘密の侵害(第2条第1項第4号~第10号・第21条第1項、第3項)
窃取等の不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、若しくは第三者に開示する行為が禁止されます。
過去の裁判例では、投資用マンションの販売業を営む会社の従業員が、退職し独立起業する際に、営業秘密である顧客情報を持ち出し、その情報に記載された顧客に対して、転職元企業の信用を毀損する虚偽の情報を連絡した事案で、損害賠償請求が認められました(知財高判平24.7.4)。
また、石油精製業等を営む会社の営業秘密であるポリカーボネート樹脂プラントの設計図面等を、その従業員を通じて競合企業が不正に取得し、さらに中国企業に不正開示した事案で、図面の廃棄請求、及び損害賠償請求等が認められました(知財高判平23.9.27)。
5.ドメイン名の不正取得等の行為(第2条第1項第19号)
図利加害目的で、他人の商品・役務の表示と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有またはそのドメイン名を使用する行為が禁止されます。
過去の裁判例では、原告の商号である「電通」と類似する「dentsu.org」など8つの「dentsu」を含むドメイン名を取得・保有し、原告に10億円以上の金員で買い受けるように通告してきた被告に対し、ドメイン名の取得、保有及び使用の差止めと登録抹消申請手続、損害賠償(50万円)が命ぜられました(dentsuドメイン名事件-東京地判平19.3.13)。
6.誤認惹起行為(第条第1項第20号・第21条第2項第1号・第5号)
商品、役務又はその広告等に、その原産地、品質、内容等について誤認させるような表示をする行為、又はその表示をした商品を譲渡等する行為が禁止されます。
過去の裁判例では、富山県氷見市内で製造もされず、その原材料が氷見市内で産出されてもいないうどんに「氷見うどん」等の表示を付して販売する行為は、原産地の誤認に該当するとして、損害賠償(約2億4000万円)が命じられました(氷見うどん事件-富山地判平18.11.10、名古屋高判平成19.10.24)。
また、食肉加工事業者が鶏や豚などを混ぜて製造したミンチ肉に「牛100%」等と表示し、取引先十数社に約138トンを出荷する等して、代金約3900万円を詐取した行為につき、商品の品質・内容を誤認させ不正競争防止法及び刑法(詐欺罪)に違反したとして、元社長に対し、懲役4年の実刑が科せられました(ミートホープ事件-札幌地判平20.3.19)。
このように、企業活動における様々な行為が不正競争防止法に当たるとされており、企業は、自らの活動が禁止されるものでないかを常に意識する必要があります。将来予期せぬことで他企業から訴えられないよう、事前に弁護士にご相談いただくと安心です。
<石田美果>