不貞行為と離婚「待機」期間

配偶者の一方に不貞行為があった場合に、離婚請求をしても、相手が同意しない限り、裁判上、離婚が認められない、ということは、ほぼ常識化していることと思います。

それでは、いつまで離婚できないのでしょうか。永久に出来ないのでしょうか。

 

 

不貞行為等の有責配偶者からの離婚請求が認められないとしたことを明らかにしたのは、昭和27年2月19日の最高裁判決で、「(浮気されたうえに離婚までされてしまい)踏んだり蹴ったり判決」と言われています。その後、この判決に一石を投じたのが、昭和62年9月2日の最高裁判決です。この判決の中で一般論を展開しているところを、そのまま掲げてみますと、

 

「夫婦が相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、離婚により相手方が極めて苛酷な状態におかれる等、著しく社会正義に反するといえる特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもってその請求が許されないとすることはできない。」

 

としています。

 

 

もって回った言い方で意味がわかりにくいのですが、

①相当長期間の別居で

②未成熟子がいない場合で

③相手方が苛酷な状態にならなければ、

浮気等をした配偶者からの離婚請求が認められそうです。

(③の「苛酷な状態」というのは、主に経済的な苛酷を意味し、相手が経済的に自立をしていないような時には、有責配偶者の側から、相当な生活費を支払ったり、相当額の財産分与の提示をすることにより、「苛酷な状態」が解消されるという意味です。)

 

 

最高裁の事例は別居期間が36年にも及ぶ特殊なケースであったのですが、その後、たとえば、7年8年という短い別居期間で、離婚請求を認めた例もあり、これらについては、相手の配偶者にも婚姻関係破綻の責任が一定程度認められている例が多いです。

 

 

最近の例では、フランス女性が日本人夫に対して離婚を請求した例で、女性の不貞、有責性を認めたうえで、別居期間もわずか2年でしたが(同居期間は約7年)、離婚請求を認めた例があります(東京高判H26.6.12)。

 

 

これは、夫の側にも、責任の一端があること、妻の下で6才、4才の子が養育されていますが、養育上の問題がないこと、夫の年収が十分であること等から、離婚請求を認めたからといって、精神的、社会的、経済的に著しく不利益な立場に夫が陥るわけではないとして、離婚請求を認めています。

 

 

お互いの気持ちが離れ、別居に及び、修復の見込のない場合には、どちらに責任があるかどうかを問わず、離婚を認めようという考え方(破綻主義)が段々と強くなってきております。婚姻関係が破綻したことについてどちらに責任があるかということは、慰藉料や財産分与を決定する段階で考えればよいという、割りきった考え方です。

 

 

意地や感情面での反発で離婚に応じないというのも、お互い不幸であることは間違いなく、気持ちの整理が出来て、今後の生活面での折り合いをつけていく方向に考え方を向けることが出来れば、理想的でより建設的です。ただ、一人で考えていても狭まった考え方から脱却できず、同じところをぐるぐる回っているような状態になりがちです。

 

 

そのため、離婚にあたっては、より広い視野から解決のアドバイスや援助をしてもらう人が必要で、冷静に対応できる親族や友人、弁護士などの専門家の意見も十分に聞く必要があると思います。(池田伸之)