会社と代表者との間の債務免除等はよく考えてから-課税関係にご用心

会社と代表者個人の間で、借入金を免除したり、お金や不動産の財産などを無償でやり取りすることがあります。思いがけずに課税関係が生じることがあり、注意が必要です。

ここで、個人・法人間の財産的なやり取りについて、その課税関係について整理しておきたいと思います。

(1)法人から個人への贈与

法人が財産を時価で譲渡したものとして、時価と取得価額の差(売却益)について、法人税の対象となり、他方、個人に対する(役員)賞与、雇用関係がなければ、「寄付金」という評価をうけることになります。もらった個人については、従業員や役員であれば、給与所得となり、雇用関係がなければ、一時所得として課税されます(贈与税と比べて課税範囲や率が低くなっています)。

債務免除の場合、免除益が発生したと評価されますが、そのうち債務者が資力を喪失して、債務弁済が著しく困難であると認められた場合には、総収入金額に算入しないという通達がありました(所得税基本通達31-17)。この規定の所得税法上の根拠規定がなく、適用を認めるかどうかで結論の異なる裁判例がありましたが、最近の税制改革で、ほぼ同一内容で所得税法の規定が新設されました(所得税法44条の2)。

(2)個人から法人への贈与

もらった法人には法人税がかかり、土地等で含み益がある資産の場合、あげた個人にも財産を時価で譲渡したとして、「みなし譲渡所得税」が課税されます(所得税法59条1項1号)。この場合、基準となるのは時価であって、贈与税、相続税の計算の基礎となる路線価ではありません。現金の場合は含みがありませんので、譲渡所得税は発生しません。

また、一定の要件を満たす公益法人などへの寄付には税金はかかりません。

同族会社に贈与したことによって株式の評価がアップすれば、増加分については、株主にもこの分の贈与があったと見なされ、贈与税が課税されます。したがって、この場合、あげた個人には、みなし譲渡所得税、もらった法人にも法人税、さらには株主にも贈与税の3つの税金が発生してしまうので、注意が必要です。

また、役員等からの法人の借入金を免除してもらった場合、法人に債務免除益が生じ、原則として課税対象となります(繰越欠損金があれば、その範囲内で相殺が可能です。)。但し、未払給与の免除については、①取締役会で決議されること、②事業不振等を理由とすること、③一定の基準によって免除金額が決定されていることを要件に、一旦収益に計上したうえで、税務申告上、減算して、益金不算入とすることが出来ます。

 

有償、無償を問わず、代表者と会社との間の譲渡、貸借、放棄等の財産上のやりとりは、安易に行わず、その課税上の評価も視野において、専門家と相談しながら進めていく必要があります(池田伸之)。