公益通報者保護法の一部改正について

本年6月4日に、公益通報者保護法の一部改正が成立しました。公布日から1年6月以内の施行ということになっており、これにより公益通報者の保護が一層強化されますので、これを機会に、既に企業の内部通報制度を運用している企業にあっては見直しを、これから導入しようという企業にあっては、今回の改正を踏まえて制度構築をする必要があります。

今回の改正の概要は以下の通りです。内部通報、公益通報者保護法全般については、これまでのブログを参照して下さい。

(1)従事者指定義務違反をした事業者への対応

常時使用する労働者数が300人超の事業者は、公益通報を受け、調査・是正措置をとる業務への従事者を定めなければならないこととされていますが、従前認められていた内閣総理大臣の指導、勧告権限に加え、勧告に従わない場合の命令権、この命令に違反したときの刑事罰(30万円以下の罰金)を新設しています。

また、従事者指定義務違反の事実が公益通報の対象事実とされており、指定義務を履行していない事業者については、労働者等から公益通報される危険があり、至急体制を整えて従事者を指定する必要があります。

(2)公益通報者の範囲の拡大

公益通報者の範囲に、フリーランス及び業務委任関係が終了して1年以内のフリーランスが追加され、公益通報を理由とする業務委任契約の解除その他の不利益な取扱いが禁じられています。

(3)公益通報を阻害する要因への対処

事業者が、正当な理由なく、労働者等に公益通報をしないことの合意を求めること等によって、公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反した法律行為は無効とされます。

また、事業者が正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為も禁止しています。

(4)公益通報を理由とする不利益な取扱いについての抑止、救済の強化

公益通報者に対する解雇は従来より無効とされていましたが、改正により、懲戒も無効とされることになりました。通報後1年以内(又は、事業者が外部通報があったことを知って解雇又は懲戒をした場合は、事業者が知った日から1年以内)の解雇または懲戒は、公益通報を理由としてされたものを推定すると定められ、民事訴訟法上の立証責任が、事業者側が負担することになります。すなわち、事業者側で公益通報を理由としたものではないことの立証をする必要があります。

さらに、公益通報を理由として解雇又は懲戒したものに対し、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が課せられることになり、法人自体についても、3000万円以下の罰金が課せられることになりました。

また、一般職の国家公務員等についても、公益通報を理由とする不利益取扱いを禁止し、これに違反して、分限免職または懲戒処分をした者に対しても、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金刑が適用される旨の規定が新設されました。私企業にとどまらず、公務員を含めて、社会全般の内部通報者保護を拡大していこうとするものです。

当事務所では、複数企業等の内部通報制度の窓口を受任しており、また、従事者に指定されている弁護士も在籍しております。制度導入を検討されているような場合には、是非ともご相談下さい。

(池田伸之)