刑事手続と証拠
1 冤罪事件と証拠
いわゆる袴田事件について,2024年9月26日,静岡地方裁判所が再審無罪判決を言渡し,その無罪判決が確定に至ったことは記憶に新しいことかと思います。
また,いわゆる湖東記念病院事件について,2020年3月31日に大津地方裁判所が再審無罪判決を言渡し,これも無罪判決が確定しています。
事件発生時期の古い,新しいにかかわらず,これまで数々の冤罪事件が発生してきました。
さて,弁護士(弁護人)として弁護活動を行うにあたって,冤罪事件を発生させることが決して無いように,証拠をよく吟味する必要があります。
しかし,刑事手続においては,警察,検察といった国家権力が,必要な捜査を強制力をもって行い,各種の証拠を収集し,弁護人はこれらの証拠を事後的にチェックすることが多くなります。
2 被疑者段階の証拠
刑事弁護をお引き受けする中で,よく被疑者段階(起訴される前の段階のこと)であっても弁護士(弁護人)は捜査機関(警察・検察など)が収集している証拠を見ることができるはずだから確認して欲しいといったことを言われることがあります。
しかし,刑事訴訟法47条は「訴訟に関する書類は,公判の開廷前には,これを公にしてはならない。但し,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められるときは,この限りではない。」とされていることを根拠として,弁護士(弁護人)であっても,被疑者段階では捜査機関の収集した証拠を見ることは原則できません。
そこで,被疑者段階では,逮捕勾留などをされている方(被疑者の方)から,弁護士(弁護人)はお話しをお聞きすることで,事件の概要を把握することになります。
3 被告人段階の証拠
被告人段階(起訴された後の段階)になると,弁護士(弁護人)は,検察庁が刑事裁判の法廷で証拠調べを請求する予定の証拠の開示をはじめて受けることができ,やっと捜査機関の収集した証拠を見ることができるようになります。
もっとも,基本的には,検察庁が証拠調べを請求する予定の証拠だけが開示されるので,他にも膨大な量の証拠があったとしても必ずしも開示されるわけではありません。
そこで,弁護士(弁護人)としては,検察庁に証拠を任意に開示するように求めることになります。
4 裁判員裁判の被告人段階の場合
裁判員裁判の場合は,刑事訴訟法で証拠開示の手続が一定程度定められているので,証拠一覧表の開示制度(刑事訴訟法316条の14第2項。といっても本当に全ての一覧表になっているわけではなく,「検察官が保管する証拠」に限定されています。警察にある証拠は一覧表の対象外です),類型証拠開示請求及び主張関連証拠開示請求といった制度により,裁判員裁判の対象ではない事件に比べて,捜査機関がもっている証拠を入手しやすくなっています。
5 まとめ
いずれにしても,捜査機関がもっている証拠を入手できる機会は,基本的に第1審段階しかありませんので,第1審で徹底して証拠を入手し,証拠を分析していくことが必要になります。
刑事事件の弁護では,実務経験が民事事件以上に重要です。池田総合法律事務所では刑事事件も取り扱っていますので,刑事事件でお困りの方は,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。
〈小澤尚記(こざわなおき)〉