前の遺産分割における「相続分の譲受」は、後の譲渡人の相続に際して、特別受益に該当するか

遺産の前渡しに該当するようなまとまった金銭や不動産等の贈与を相続人が受けていた場合、遺産分割にあたって、これを特別受益と称し、原則として、相続開始時の価格に引き直して、相続財産に組み入れられ(これを“持戻し”といいます。)、そのうえで、相続分が計算されます。したがって、特別受益を受けた相続人の遺産分割にあたっての相続分は、その特別受益の価格分だけ減額されることになります。

 

では、相続人が、自分の相続分を他の相続人にあげるという場合は、どのように考えたらいいでしょうか。

 

遺産分割にあたって、相続人が他の相続人等に、自らの相続分を譲渡することが認められます。その法的性質については、積極財産(資産)と消極財産(借金等の債務)とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が、譲受人に移転し、これに伴い、個々の相続財産についての共有持分の移転が生じるとされています(H30.10.19最高裁判所判決)。そのうえで、この相続分の譲渡について、債務の方が資産よりも大きい場合等、財産的価値がないような場合を除いて、譲渡人を被相続人とする相続においては、特別受益に該当するとされています(上同判決)。

 

相続分の譲渡は、抽象的な権利を譲受けるものですが、具体的には、上記判例のように、個々の相続財産の共有持分の移転を受けるもので、贈与というにふさわしく、常識にもかなった判断だと思います。

 

但し、実際上は、相続分の譲渡という明確な形で行われるのではなく、遺産分割の中で他の相続人の相続分を実質的に取得する、いわば「隠れた」相続分の移転が行われることも多いと思われます。

 

たとえば、父、母、子ども2人(長男・長女)で、亡父の財産が不動産5000万円、預金3000万円である場合に、父の遺産分割に際し、母親が相続をせずに、長男が不動産と預金1000万円、長女が預金2000万円をそれぞれ取得して遺産分割をする場合です。この場合、長男は、6000万円相当の遺産を取得し、これは、母親と自己の相続分(1/2+1/2×1/2=3/4)に相当します。

 

母は、実質的に相続分の放棄をしているものですが、そうするに至った事情は様々あると思いますが、事情によっては、これが、特定の他の共同相続人(本例では長男)への相続分の譲渡として解される余地があると思われます。したがって、この場合は、母親の死亡時の二次相続に際して、その分を長男への特別受益として考慮する余地があります。

 

また、この例で、母より先に長男が死亡し、長男に妻はあるものの子どもがいないという例では、妻とともに母親も相続人となり、長男の遺産分割にあたって、母親が実質的に父の相続にあたって相続分を放棄したことによって、長男の財産を増加させたのであるから、特別の寄与があるという主張ができるのかという問題もあります。

 

一旦終了した遺産分割を蒸し返すので認められないという考え方が強いですが、他の相続人の財産を増やしていることが明らかな場合に、寄与を認めないのも公平に反するとして、寄与分を認めるべきという考え方もあります。これについては、私の先行のブログ(2016年8月10日、寄与分~先行する相続での「放棄」は寄与分となるのか)を参照下さい。(池田伸之)