副業・兼業 これからの働き方を使用者側の立場から見てみると

会社の就業規則によって社員・従業員の副業を制限したり、禁止したりしている企業がこれまでは大半であったと思いますが、新たな技術開発やキャリア形成につながるという観点から、考え方を転換し、副業を認める企業も少しずつみられるようになりました。

 

本業以外に従事する仕事(副業)から収入を得ることは、そもそも法律(憲法22条の職業選択の自由)は禁止していません。原則的には、労働契約に拘束される以外の時間で副業を行うことは個人の自由です。それを拘束しているのは、会社の就業規則の規定で、勤務中は職務に専念する義務(職務専念義務)や職務上知り得た秘密を守る義務(秘密保持義務)、競業する他者に雇用され、在籍している会社の利益を不当に侵害してはいけない(競業避止義務)などが規定され、場合によっては懲戒処分の対象となる可能性があります。

裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的に労働者の自由であり、各企業において、制限することが許されるのは、

①労務提供上の支障がある場合

②業務上の秘密が漏洩する場合

③競業により自社の利益が害される場合

④」自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

に要約されます。

 

企業の副業解禁の動きは、最近、起業が珍しいことではなくなり、また、社員の次の人生のステージの準備としても有効なことが意識され始めたこともあって、企業としても、消極的に考えるばかりではなく、社内での複数の分野に跨る活躍以上に有用な社員の能力開発の方法として、積極的に捉える考え方もみられます。

副業・兼業の形態も、正社員、パート、アルバイト、会社役員、起業による自営業主など様々です。

 

厚生労働省は、2018年(平成30)1月にモデル就業規則を改定し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」としています。

 

副業を認めている企業の多くは、副業を始めるにあたって事前に会社からの許可が必要であると定めています。申請書を提出し、会社から許可を受けるということになります。会社としては、副業先の事業主名や業務内容、想定される業務時間の記載を求めるということになります。その際、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止または制限することができる様にしておきます。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の合意書の様式例などを参考にされるとよいと思います。

また、業務上の秘密漏洩についても注意喚起が必要です。

労働基準法では、労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算すると規定されています(同法第38条1項)が、事業主を異にする場合も同様です。

労働者が使用者A(先契約)に加えて、使用者B(後契約)で副業・兼業を行う場合、使用者Aでの法定労働時間(1週40時間、1日8時間を超える労働時間)と使用者Bでの労働時間を合計して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となるように、各々の使用者の事業所における労働時間の上限をそれぞれ設定します。使用者Bは、使用者Aでの実際の労働時間にかかわらず、自らの事業場の「労働時間全体」を「法定外労働時間」として、割増賃金を支払います。それぞれがあらかじめ設定した労働時間の上限の範囲内で労働させる限り、他の使用者の下での実労働時間を把握する必要はありません。以上のように、厚生労働省の労働時間の「管理モデル」では、労使双方の負荷軽減が示されています。

言うまでもないことかもしれませんが、そもそも、顧問、理事等の就任には労基法が適用されませんし、労基法は適用されるものの労働時間規制が適用されない、農水畜産業、管理監督者、高度プロフェショナル制度などもあります。

 

副業・兼業の開始後、企業としては、社員・従業員から報告を求め、健康管理に問題が認められるような場合に適切な措置を取るなど安全配慮義務があることも忘れてはならない点です。

また、副業先での社会保険の適用要件を満たしているときは、副業先でも加入義務が生じます。保険料については、各企業で案分して計算する必要が出てくると考えられます。

 

やる気のある社員・従業員に制限をかけることは退職を促すことにもなりかねません。副業・兼業に関してポジティブな社員・従業員の声があるとすれば、企業側も検討してみてはいかがでしょう。

社員・従業員の雇用施策で課題を感じられる場合には、お気軽に池田総合法律事務所ご相談ください。

 <池田桂子>