各種アカウントのパスワードをどう相続人に知らせるか・・・。
相続対策の分野で、「デジタル遺品」という言葉を目にするようになりました。デジタル遺品とは、法律用語ではなくいわゆる俗語ですが、電子マネー、ポイント、暗号資産、ネットバンクやネット証券の口座などから各種アカウント、電子データまでを含むものを意味するようです。いわゆる現物・実物や化体物等(たとえば現金や通帳がそうです)のないものというイメージが共通する点でしょうか。
現物・実物、化体物等があれば、相続人にとっても、所有していることが明らかであったり、探せば見つけやすかったりしそうです。しかし、デジタル遺品の場合、相続人からするとその存在自体把握しづらく、また、知りえたとしてもIDやパスワードを知らなければ相続手続きのためのアクセスすら難しい、ということがありえます。
デジタル遺品は、相続人が被相続人に知らせる工夫をしておいた方がよさそうです。
ネット銀行の口座等の場合、その存在を相続人に知らせておくだけでも、適切な手続きを踏めば払い戻しなどの相続手続きは可能です。遺言書にその存在を明記しておくだけ、また相続人に事実上知らせておくだけでもなんとか相続手続きができまです。
問題は、IDとパスワードの情報が必要な、アカウントの管理や、クラウドやデバイス上のデータです。家族と言えども、IDとパスワードを知らせておく、というのはなかなかハードルが高いのではないでしょうか。しかし一方で、クラウドやスマホなどのデバイスに保存された写真や動画など、残された家族にとっても重要なデータがアクセスできず、またその存在を知られぬ間に失われるのは惜しい。
IDとパスワードはだれかに一緒に知られるとまずいので、生前からアカウントの存在やIDだけは相続人に知らせておいて、死後にパスワードだけが相続人に知られるようにすればいいはずです。考えられるのは、信頼できる人にパスワードを託したり、紙に書き封をして仏壇にしまっておくなどという方法です。とはいえ、託す人が死んでしまったり、隠した封筒が見つけてもらえなかったりといった点に不安が残ります。
そんなデジタル遺品の相続の場面では、自筆証書遺言書保管制度が活用できるかもしれません。この制度は、自筆の遺言を法務局が保管し、希望すれば死後に、生前指定した相続人などに通知してもらうこともできるというものです。預かる際に形式上のチェックはしてくれますが、その内容については確認してくれないため、弁護士としてはあまりお勧めする場面はないなぁ、と思っていました。しかし、アカウントのIDやパスワードなど、生前には誰にも知られたくない情報を、死後に相続人に通知してもらうためのツールとしては有効といえるのではないか、と思いました。各種パスワードは定期的に変更したりするかもしれません(最近は、定期的に変更すると簡単なものにしがちなので、定期的な変更は推奨されていないようですが)。そんな場合でも、パスワードの管理ソフトを導入してそのマスターパスワードを記載するとか、記載をヒントに留めるとか、リスク許容度に応じて、いろいろな工夫が可能なように思います。
(山下陽平)