同族会社所有資産への財産分与請求は認められるか
配偶者に対する離婚に際しての財産分与に当たっては、法人と個人は別の法人格なので、財産分与の請求をする際の対象財産として、例えば、配偶者の経営する会社の資産を直接の対象とすることは、原則として出来ません。
ところが、苦労をして事業をおこし、他方配偶者もその際に協力し、会社資産の形成に大きく貢献したような場合に、個人と会社は別という考え方を形式的に貫くことは実態に反し、いかにも不公平な結果となります。そのため、法人の実態が個人経営の域を出ず、実質上、夫婦の一方又は双方の資産と同視できるような場合においては、法人の資産も夫婦の一方又は双方の資産として評価して、分与の対象に含める考え方が有力です。
裁判例としては、【自動車販売業を行っていた夫と共に家業に協力をし、妻も役員となっていた事例】で、その後法人化した同族会社名義の財産及び母や兄名義の不動産も分与の対象としたものがあります(広島高裁岡山支部判決H16.6.18)。すなわち、名義の如何を問わず、実質的には共有の財産と認定したものです。夫の側からは、これらの資産の形成は夫の才覚と努力によるもので、妻の方は家業への協力といっても簡単な帳簿付けと集金程度以外はしておらず、寄与率は2、3割程度と主張しておりましたが、裁判所は、妻は、家事や4人の子どもの監護をしたうえ、事業に協力し、資産形成に大きく貢献したとして、5割の寄与割合を認め、3億2000万円余の財産分与を認めました。
また、最近では、【医療法人の裁判例】があります。夫婦名義の出資持分のほか、夫の母名義の出資持分も財産分与の対象とし、医療法人の純資産価格に0.7を掛けた金額を出資持分の評価額とし、妻の寄与を4割として、1億1640万円の支払いを命じたものです(大阪高等裁判所判決H26年3月13日)。
母親の出資持分50口を対象とした点については、夫が名義上も出資持分の96.66%(2900口)を保有していることから、医療法人の財産は、法人化前の診療所時代の財産に由来し、それを活用することによって、その後増加したものと考えるべきことから、と説明されています。
評価額について、0.7を掛けて減額したことについては、医療法上、収益等の剰余金についてはこれを配当が出来ないもので、会社等の営利法人とは異なった規制があり、定款上、退社や医療法人の解散にあたり、社員が出資額に応じて法人財産の分配請求権を有していたとしても、現時点で退社や医療法人の解散は考えられず、将来、出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がなされるまでに、長期間を要し、どのような事業運営上の変化などが生じるか確実な予想をすることが困難であるからとして、減価をしています(減価率の根拠は示されていません)。
また、妻の寄与率を40%としたのは、原則平等であると解するのが相当であるにしても、夫が医師の資格取得までに、婚姻前から努力をしてきたこと、医師資格を活用し、多くの労力を費やして高額の収入を得ていることから夫60%、妻40%としたものです。
裁判所の判断は、形式にとらわれず、財産の形成や帰属の実態に注目して、それにあった適正な分与額を決める工夫をしていると言えますが、たとえば、「同族会社でご夫婦の他の親族も株を保有しているような場合は、株は実態的にも個人資産と同一視することが出来ないことが多く、また、財産分与にあたっての株の評価も、難しい問題を生じることになりますので、ご相談いただいた方がよいと思います。(池田伸之)