土壌汚染対策法の概要

2020年6月11日掲載の法律コラム「土壌汚染が疑われる土地売買その他の注意点」で土壌汚染が疑われる土地売買にあたっての注意点などを挙げましたが,土壌汚染については土壌汚染対策法で規制がかかっています。

そこで,今回は土壌汚染対策法の概要をまとめました。土壌汚染の問題は環境分野の一つではあり,古くて新しい問題であり続けています。現在では,ESG投資という言葉もあるとおり,土壌汚染は環境,社会,企業統治のいずれの面からも問題になる可能性がありますので,ご参照ください。

 

1 土壌汚染対策法の目的(法1条)

土壌汚染対策法では,①汚染土壌から有害物質が地下水に溶出し,その地下水を飲用利用等する経路による健康被害,②汚染土壌の摂取(例えば,砂塵となった土壌が口に入る場合など)や皮膚からの吸収による直接摂取の経路による健康被害を防止することに目的があります。

農用地の土壌汚染については,人の健康を損なうおそれがある農畜産物の生産及び農作物との生育の阻害を防止することを目的として,「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づく規制があります。

ダイオキシン類による土壌汚染については,特別法であるダイオキシン類対策特別措置法が土壌汚染対策法よりも優先適用されるものと考えられます。

放射性物質による土壌汚染についても,特別法である放射性物質汚染対処特別措置法による規制が優先されます。

廃棄物の処理等を原因とする土壌汚染については,土壌汚染対策法の規制対象ですが,土壌中の廃棄物は廃棄物処理法の規制対象になります。なお,土壌が汚染されておらず,産業廃棄物も存在しない「土壌」,いわゆる建築残土などの『土』そのものは,土壌汚染対策法の規制対象にもなりませんし,『土』は廃棄物=ゴミではないので,廃棄物処理法の規制対象にもなりません。

 

2 土壌汚染対策法の規制対象物質(法2条)

土壌汚染対策法の規制対象物質は,法2条とそれをうけた土壌汚染対策法施行規則で定められた,①第1種特定有害物質(揮発性有機化合物)(12項目),②第2種特定有害物質(重金属等)(9項目),③第3種特定有害物質(農薬,PCB等)(5項目)があります。

そして,①~③については,「土壌溶出量基準」が定められ,地下水に溶出した場合の健康リスクを防止しようとしています。

また,②については,「土壌含有量基準」も定められており,直接摂取による健康リスクを防止しようとしています。

例えば,土壌汚染対策法施行規則第1条第1号に定められている「カドミウム」(第2種特定有害物質)は,富山県神通川流域でイタイイタイ病という公害をもたらした原因物質であり,神通川流域にカドミウムが排出され,土壌中に入り込み,そこで育った作物等の摂取を通じて人体に取り込まれ,人の健康に害を及ぼしました。そこで規制対象となっています。

 

3 土壌汚染状況調査(法3条)

(1)調査対象土地

調査対象となる土地は,特定有害物質を使用等する水質汚濁防止法の特定施設(特定物質使用特定施設)が設置されている工場または事業場(工場等)の敷地です。

(2)調査の契機

調査は,工場等を廃止(特定有害物質の使用をやめる場合も含む)し,土地の用途を工場等以外の用途に変更する時点です。

(3)調査の実施主体

工場等の土地の所有者,管理者,占有者があたります。

所有者が調査主体となるのは,調査のため土地の掘削等を要するので必要な権原を有するのは所有者であるためです。

しかし,必要な権原を所有者が破産していれば破産管財人が権原を有しますので,その場合には管理者,占有者が調査実施主体になります。

(4)他の調査

他に,①土壌汚染のおそれがある土地の形質の変更が行われる場合の調査(法4条),②土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地の調査(法5条)があります。

 

4 土壌汚染の除去

(1)土壌汚染の除去主体(法7条)

土壌汚染の除去の主体は,汚染原因者,土地の所有者,管理者,占有者です。

これも調査の考え方と同じで,土壌汚染を除去しようとする場合には土地そのものに手を入れる必要があることから,権原として所有権を有する所有者が主体になります。

(2)費用の請求(法8条)

土地の所有者等が,土壌汚染の除去をした場合,その除去費用は,所有者から汚染原因者に請求できます(汚染者負担の原則)。

しかし,土壌汚染対策法8条に基づき,土地所有者等が汚染原因者に請求できるのは,土壌汚染対策法に基づく指示を受けた場合に限定されます。

また,土地所有者等が,汚染原因者に請求できる費用は,指示の差異に示された措置(指示措置)に必要な計画の作成,変更及び指示措置のための実施費用に限定されています(土壌汚染状況調査の費用や指示措置以外の内容の費用は請求できません。)。

(3)消滅時効

①実施措置を講じ,汚染原因者を知ってから「3年間」

②実施措置を講じてから「20年」経過

に請求しなければ消滅時効となり,権利が消滅するおそれがあります。

 

5 最後に

土壌汚染対策法は,土壌汚染の原因を作ったわけではない土地の所有者等が最終的に土壌汚染の除去工事をしなければならない可能性があるとしています。

工場跡地などの大規模商業施設開発,大規模マンション開発の際には,避けて通れない問題ですし,一度,土壌汚染が判明すれば多額の費用をかけて土壌汚染対策工事除去工事をする必要があります。

法人の事業等において,土壌汚染の問題がありましたら,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉