大家さんが知っておきたい、賃貸経営トラブルへの対処法(連載・全6回)~第5回~
今回は、賃貸建物が老朽化した場合に、賃借人に退去を求めていくための手続きについて説明します。
賃貸借契約が長くなるとともに、不動産は老朽化していきます。適切に修繕を重ねても、最終的に建物の老朽化は避けられません。あまりに老朽化が進むと、台風や地震などで建物が倒壊したり損壊したりするリスクが高まります。賃貸建物倒壊や損壊によって賃借人や近隣住民や歩行者が怪我をした場合、賃借人との賃貸借契約や、土地の工作物の所有者責任(民法717条1項)にもとづき、損害賠償請求を受けることになりかねません。
あまりに老朽化が進んだ建物を賃貸することは、そのような法的リスクがあります。貸主の立場としては、老朽化した建物について賃貸借契約を適時に解約できれば良いのですが、実際には老朽化を理由に一方的な解約ができることはほぼありません。
その理由の一つが、賃貸人の修繕義務(民法606条)の存在です。修繕によって、建物が使用可能であるのであれば、修繕を施す必要があります。一方で、大修繕を要し莫大な費用がかかる場合まで、賃貸人が必ず修繕しなければならないというわけではありません。
とはいえ、そのような場合でも、やはり一方的な解約はできません。借地借家法28条で借家契約の解約の申し入れに正当事由が必要とされているからです。この正当事由には、相応の立退料の支払いも考慮要素となります。これは、生活の基盤たる住居を明け渡すことが、賃借人にとって重大な不利益にあたることを考慮し、相当の補償がなされなければならないためです。
したがって、賃借人に老朽化に基づく立ち退きを求めるには、老朽化の事実を前提として、相応の立退料を提示することが必要になります。なお、賃借人が話し合いに応じない場合には訴訟を提起する必要がありますが、裁判でも同様に、老朽化が進んでいることと、相当の立退料を支払うことを証明する必要があります。賃貸借契約を解約する「正当な事由」があるかが裁判の争点となり、判決では、立退料の金額が定められ、その支払いと引き換えに立ち退きが命じられることとなります。
なお、立退料の金額は、一律に決まるわけではありません。賃貸人側の事情と賃借人側の事情が両方考慮されるからです。たとえば、取り壊しの必要性のほか、従前からの賃貸借契約の履行状況(修繕の有無や賃料が低額に過ぎないか、賃料滞納がないかなど)が考慮されますし、賃借人が商売をしているような場合では営業補償などが立退料として考慮される余地があります。とはいえ、倒壊の恐れがあるほど老朽化した建物を住居として利用している場合には、あらたな住居で生活ができる程度の立退料として、引っ越し費用や敷金などの費用と一定期間の差額家賃などが一応の目安になるでしょうか。
以上述べたように、老朽化を理由とした立ち退きは様々な要素が考慮され簡単ではありません。また、妥当な立退料を算定するにも複雑な要素を考慮する必要があります。あまりに低額な立退料を提示すれば借主の態度も硬化するでしょうし、一方で借主から高額な立退料を請求されることもあります。
当事務所には立ち退き交渉等に経験豊富な弁護士が在籍しております。老朽化に伴う立ち退きに関しても池田総合法律事務所にお気軽にご相談ください。
山下陽平