契約交渉における情報提供にご注意を!
ビジネス社会に契約は付きもの。契約交渉の過程で相手方にどれだけの情報を提供するか、反対にどれだけの情報を獲得するかは、事業展開にとって死活問題ともなります。
契約するかの最終判断は当事者の自己責任というべきことになるのが基本でしょうが、提供する情報によって、相手を引き寄せたり、相手を信用させたり、といったことは必要です。しかし、駆け引きとして、どこまでが許された範囲なのでしょうか、微妙なケースもありますから、注意が必要です。
取引によっては、相手方から提供される情報がなければ的確な判断がそもそも困難なものも取引によってはあり、そんな時は、情報提供義務が問われることもあります。
ご存知の方もあると思いますが、例えば、フランチャイズチェーンの展開で、新規店の応募、募集では、ファランチャイザーが契約交渉時に提供した売上げや利益に関するフランチャイザーの予測が不正確な情報に基づいたり、不合理な方法で算出された場合には損害賠償義務を負うとした裁判例があります。
中古住宅販売の仲介業者が隣人の迷惑行為を知っていたのに、買主に説明しなかったとして、不法行為責任を認めたケースもあります。記憶に新しいところでは、変額保険その他の金融商品について、売主である保険会社や証券会社の説明責任を認めた裁判例も多数あります。
情報格差のある両当事者の間では、このように、専門知識のある者とない者とで、そもそも構造的に専門的な知識や情報を持っている一方に依存しなければならないという問題があります。その分野の専門家、専門事業者としての情報提供義務があると言ってよいでしょう。
こんなケースではどうでしょうか。某建築会社が将来受注することを想定した焼却施設解体工事で、ダイオキシン類無害化処理システムを計画していましたが、その取得に3億円前後の費用がかかることから、第三者に所有させ、設備を使用させることとして、発注しました。作業を建築会社から受注できると判断した下請業者は、そのために必要な設備を購入しましたが、建築会社から作業の発注はなかったため、設備の取得費と売却益の差額について支払ってほしいと損害賠償を求めました。この事案で、建設会社が業務発注の見込み及び設備取得費の改修ができるか蓋然性を説明しなかった点に情報提供義務違反があるとして損害賠償責任を認めた判決が下された最近の例もあります(東京地裁判決平成21年7月31日判決)。
設備の取得費用の償却が予定期間内にできるかどうかの判断は下請け事業者にとっては重要な情報です。しかし、積極的に誤った情報を提供したような場合は別として、業務発注があるかないかといった情報の提供、すなわち投資費用の回収の見込みという情報は、判断リスクとして下請業者自らが負うべきものという意見もあるように思われます。
このような事案で、最後にものを言うのは、契約条項。その施設を利用した発注ができなかったとしても、そのこと自体は契約違反には当たらないため、下請業者は、発注見込みについての説明義務という信義則違反を争ったわけです。
いずれにせよ、紛争の火種を残さないためには、不確実なことは不確実なこととして認識してもらい後は自己判断に任せるという点をはっきりさせながら交渉を進めるということですが、やはり商売は難しいものですね。<池田桂子>