子どもの引き渡しを強制的に求める方法は?(子の引き渡しの強制執行)
子どもが親の間で引き裂かれるのは良いことではありませんが、例えば、親権のない親が子どもを連れ去ってしまった場合、裁判で子どもの引き渡しを命じられることがあります。子どもは物ではないのですが、だからこそ、どう引き渡しという命令を実現するのか、難しいところです。
従前、旧民事執行法には子供の引き渡しの強制執行につき、明文規定がなく、間接強制(債務者に対して金銭の支払いを命じるなど一定の不利益を課すことで心理的に圧迫し義務の履行を強制する)の方法のほか、動産の引き渡しの規定(民事執行法169条)を類推適用していました。引き渡しの現場ではどこまでの行為が許されるのか、判断が困難な事案も生じていたと思います。執行官が引き渡しを求めに現場に行って呼びかけても、居留守を使って子どもの引き渡しに応じない場合には強制的に押し入ることを断念せざるを得ない事態も生じていました。
一昨年法改正が行われ、民事執行法及び「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」の一部を改正する法律が成立して、ルールが変更され、2020年4月1日から子の引き渡しの強制執行に関する規定が施行されました。
先日、フランスの司法当局がフランス人の夫の申立に基づき、子どもを連れ去った日本人妻に逮捕状を発布したというニュースがありました。国をまたがる子どもの返還要求事件も少なくありません。国際的な事案での子の引き渡しに関しての規律として、ハーグ条約があります。
裁判所が親権のない親に対して引き渡すように命じた義務を裁判所の執行官に代わり実現するとし、引き渡しに協力しない場合には一日あたり支払う額を決めて金銭の支払いを求めることで義務を果たすように促す方法が、ハーグ条約の批准に伴い国内法の規律を定める一足先に、規定されていました。ハーグ条約では、前もって間接強制を行うことや引き渡しを命じられた親が同席することが必要とされていました。これに比べて、国内法は実効性がないということになり、改正をすることになったものです。
強制執行の申立ては、①間接強制の決定の確定した日から2週間経過したときだけでなく、②間接強制では引き渡しの見込みがあると認められないときや③子の窮迫の危険を防止するために必要があるときに認められます(民事執行法174条2項)。日本法では必ずしも、間接強制を前にする必要はありません。
また、実際の強制執行の手続きを行う際、執行官は子どもの住んでいる家屋に引き渡しの義務を負う親の同意なくとも立ち入り、子どもを探して連れてくることができます。従前には必要とされていた引渡しを命じられた親の同席は、不要です。その代わり、引き渡しを受ける親が引き渡しの現場に同席して、子どもが不安がらないように配慮することが可能です。
また、債務者が住居外に連れ出してしまった場合、執行不能になるのでしょうか。いえ、債務者の住居その他に占有する場所以外においても、相当と認められるときには、占有者の同意や許可を受けて引き渡しを受けることができるようになりました(新民事執行法175条2項)。ですから、学校や幼稚園・保育所などで子どもの安全やプライバシーに配慮しながら執行することができます。
平成28年から令和2年末までの5年間の子の引き渡し強制執行の対応件数は477件。連れ戻しに成功したのは約3割ということです。
日本では、離婚時に共同親権が認められていないので、父または母いずれかを親権者と取り決めることになっています(単独親権)。司法統計によると裁判所の審判や判決で子の引き渡しが確定したのに命じられた片方の親が命令に従わず強制執行申し立てに至ったのは年間50件超、引き渡しが成功したのは33.3%ということです。
子どもには子どもの意思や感情があり、無理やり連れ去ればトラウマを残すことにもなりかねません。子どもの最善の利益は何か、目の前のことだけでなく、子どもにとっての配慮をくれぐれも忘れないようにしたいものです。
<池田桂子>