改正民事執行法~不動産に関する情報取得手続と利用の実情~

1 はじめに

前回の令和元年の民事執行法の改正内容と財産開示手続の利用の実情のコラムの続編として,今回は不動産に関する情報取得手続についてのコラムをお届けします。

 

2 不動産情報の入手

(1)概要

判決等(債務者に対して金銭の支払いを命じる判決などのことを「債務名義」といいます。)を持っている債権者の申立てにより,裁判所が法務局に対して,債務者の不動産情報(登記情報)を提供するように命じ,法務局が裁判所に情報を提供する制度が改正民事執行法で導入されました。

(2)財産開示手続の先行(前置(ぜんち))

不動産情報の取得手続を裁判所に申し立てるためには,先行して財産開示手続をしたものの,財産開示手続が債務者不出頭などで成功しなかった場合(目的不奏功)である必要があります。

財産開示手続は,不動産情報の取得手続申立ての日の前3年以内に行っている必要があります。

(3)申立てができる債権者

申立てができる債権者の典型は,執行力のある債務名義(=判決等の末尾に執行文という強制執行ができるという裁判所の書面が付けられた判決等のことです)の正本をもっている金銭債権の債権者です。

金銭債権に限定されますので,例えば債務者に100万円を支払えと命じた判決をもっている債権者などが典型的な申立てができる債権者になります。

(4)管轄裁判所

債務者の住所を管轄する地方裁判所に対して,基本的に申立てをします。

(5)手続の流れ

裁判所に申立て

⇒債務者に情報提供命令を裁判所が送達・確定

⇒裁判所が東京法務局に対して情報提供命令を告知

⇒東京法務局が裁判所に不動産情報を提供

⇒債権者は裁判所で情報提供書面を謄写して情報入手

⇒情報提供がなされてから1か月以上経過後,裁判所が債務者に対し情報提供を通知

(6)裁判所の手数料

裁判所に納める申立手数料は,1件の申立てにつき1000円です。申立手数料のほかに裁判所に予納金を納める必要がありますが,具体的な金額は裁判所の指示した金額になります(例えば,東京地方裁判所であれば予納金は不動産情報1件あたり6000円とされています。2021年10月7日時点)。

 

 

3 申立ての実情について

不動産情報の取得手続制度は,令和3年(2021年)5月1日からスタートした新制度ですので,申立件数の実数などは裁判所からまだ発表されていません。

ただし,不動産については,不動産登記簿は法務局で誰でも取得できるものですし,債務者が所有している可能性がある不動産の所在地は大まかに把握することができることが多いことからすれば,裁判手続を利用するよりも法務局で直接登記を取得する方がよほど簡単です。

そこで,不動産情報の取得手続は,債務者が不動産を持っている可能性はあるけれど,どこにあるのか全く分からないという状況ではじめて利用価値が生じるものと思います。

利用動向や実例の集積を待つ必要はありますが,預貯金情報や勤務先情報の方が,情報取得手続の利用価値は高いものと思います。

強制執行,第三者からの情報取得手続などでお悩みの方は,一度,池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉