敷引契約の有効性

消費者契約法が施行後、マンション等の賃貸借契約でこれまで当たり前とされてきたことについて、法的な見直しを迫る裁判例が相次いでいます。明渡にあたっての原状回復の費用を全て借主に負担させ敷金から引いていいのかどうか、契約更新のたびに家主は更新料を請求できるものなのか、等々。

 

今般、関西地方を中心に居室の賃貸借契約で慣行的に行われてきた敷引契約(明渡時に、明渡までの賃貸期間に応じて一定金額を保証金から当然控除し、その代わり通常の使用や経年によって自然に生じる損耗については、借主は原状回復を要しないという特約)について、最高裁の判決がでました。

23.3.24最判http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110325093237.pdf

敷引契約が消費者契約法10条に反して、消費者である借主の利益を一方的に害するものではないか、という問題意識から訴訟が提起され、高等裁判所段階では、無効なのかどうか判断が分かれていました。最高裁は、一律に無効とはせず、補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金、更新料等の一時金の授受の有無やその金額を判断要素として、敷引金が高額にすぎるときは、賃料の近隣相場と比較して、大幅に低額である等の特別の事情がない限りは、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条により無効となるという判断を示しました。問題の事例では、敷引の金額が、2倍弱ないし3.5倍強にとどまり、更新料として更新時に1ヶ月分の負担があるほかは礼金等の支払義務がないことを理由に、敷引の金額が、「高額に過ぎる」ものではなく、無効であるとはいえないとしています。

 

判断材料は一応示されているものの「高額に過ぎる」という評価を含む判断基準なので、どの辺りまでが限界なのかははっきりとはしませんが、当該事例での上記の判断の仕方をみると、無効となる余地は残しているものの、敷引契約が無効となるのはかなり限られた事例であると思われます。(池田伸之)