書店の逆襲~万引き防止プロジェクト~

先日,渋谷の3書店が,各店の顔認証システム付き防犯カメラで割り出した,万引き犯の顔の画像を各店で共有するプロジェクトを発表しました。

顔情報は個人情報ですが,防犯カメラで入店客の顔情報を防犯目的で収集することは通常行われており,個人情報保護法上問題ありません。入店客の同意も不要です。

しかし,①万引き犯の顔画像(万引き犯にとって,自分の犯罪に関わる重大情報)が対象であること,②3書店間で共有されることを考えると,本プロジェクトは防犯カメラの通常の利用の範疇を超えている気がしますね。

本プロジェクトは,個人情報保護法のハードルをどのようにクリアしたのでしょうか。

 

①万引き犯の顔画像を集めることについて

個人情報保護法には,「要配慮個人情報」という概念があります。これは,もし人に知られたら,本人への不当な差別や偏見につながるため,取扱いに特に注意すべき個人情報をいいます。

要配慮個人情報は,取得する段階で本人の同意を取らなければいけません。そして,「犯罪の経歴」に関する情報は,要配慮個人情報に該当します。

そうであるとすれば,万引き犯の顔画像は「犯罪の経歴」に関する情報=要配慮個人情報ではないか,本人の同意を取らずに集めてはいけないのではないかとの指摘がありえます。

しかし,「犯罪の経歴」は前科,即ち有罪判決を受け確定した事実を指すため,単なる顔画像は,万引き犯のものであってもこれにあたりません。

そのため,万引き犯の顔画像を集めること自体は,同意がなくても可能です。

 

②3書店間で共有することについて

 A書店で取得した万引き犯Xの画像を,B書店やC書店に共有することは,形式上,「個人情報の第三者への提供」として,個人情報保護法上,提供することの同意を本人(X)から得なければならない行為です。

そうであるとすれば,3書店間で自由に共有することはできないようにも思われます。

しかし,共有する相手・共有する情報・利用目的を特定し,予め見やすい位置に掲示する,ホームページ内のすぐたどり着けるページに掲載するといった処置をとることで,同意が不要になります。実際,本プロジェクトの3書店は,店内にこれらの項目を大きく掲示しています。これにより,3書店は,万引き犯の画像を自由に共有できます。

以上のとおり,本プロジェクトは,個人情報保護法上問題ありません。

 

しかし,たとえ法律上問題なくとも,本プロジェクトには,顧客の警戒感や違和感といった事業遂行上無視できない課題がありますし,情報漏洩した場合の影響も大きいです。類似のプロジェクトを実施するにあたっては慎重な検討を要すると思います。実施を検討されている方はもちろん,個人情報保護法に不安のある方はお気軽にご相談ください。

<藪内遥>