最高裁判例紹介②

(最高裁令和5年10月26日決定:遺言により相続分が無いと指定された相続人は,遺留分侵害額請求権を行使した場合には,特別寄与料を負担するか)

 

1 最高裁令和5年10月26日決定の事案の概要

今回取り上げる最高裁令和5年10月26日は,特別寄与料についての最高裁の判断の一つです。

この判例の事実関係は次のようなものでした。

Aさん(=被相続人)が令和2年6月に死亡し,Aさんの相続人はAの子であるBさん及びCさんでした。

Aさんは,生前にAさんの遺産すべてをBさんに全部相続させる内容の遺言書を残していました(Cの相続分は無い)。

そこで,Aさんが死亡した後,CさんはBさんに対して遺留分侵害額請求権を行使しました。

この事実関係のもとで,Bさんの妻Dさんが特別寄与料の請求をCさんに対して行いました。

最高裁の決定文からは詳細な親族関係は分かりませんが,Aさんは配偶者に先立たれており,法定相続人が子どもであるBとCのみでした。そして,おそらくAさんはBさんとDさんご夫婦と同居して,DさんがAさんの介護をしていたので,AさんはBさんに全てを相続させるという内容の遺言書を残しました。

これに対して,遺言書で何も相続できないとされたCさんが,Bさんに対して遺留分侵害額請求権を行使したところ,DさんがCさんにAさんの介護をしていたことを理由として特別寄与料を請求した事案と思われます。

 

2 特別寄与料とは

特別寄与料という制度は,民法改正に伴い,令和元年(2019年)7月1日に導入されています(民法1050条)。

特別寄与料制度は,相続人ではない被相続人の親族が被相続人の療養看護に務めるなどの貢献を行った場合に,貢献をした者が,貢献に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求できるとする制度です。

具体的には,

・相続人以外の被相続人の六等親内の血族,配偶者,三親等内の姻族が,

・無償で療養看護その他の労務を提供し,

・被相続人の財産の維持または増加したという

・特別の寄与をしたことに対し,

・相続人の一人または数人に対して特別寄与料の支払いを請求する

という制度です。

例えば,夫の母親の介護を自宅で行っていた配偶者(妻)のような場合が想定されており,配偶者は夫の母親(=被相続人)の法定相続人ではありませんが,有料介護サービス並の療養看護をしていたのであれば,有料サービスの利用料分は夫の母親の財産は減少しなかった(=維持された)ので,それを特別の寄与として,夫の母親(=被相続人)の法定相続人(夫の兄弟など)に対して特別寄与料を請求できるとするものです。

今回ご紹介する最高裁令和5年10月26日決定の事案は,Dさんが遺留分侵害額請求権を行使して一部の遺産を取得することになるCさんに特別寄与料の負担を求めたことに対して,Cさんは遺留分侵害額請求権を行使すれば特別寄与料を負担しなければならないのかが争点となった事案でした。

3 最高裁令和5年10月26日決定

(原審の判断)

原審は,相続人が複数人いる場合には,各相続人は特別寄与料を法定相続分等に応じた額を負担するので,遺言により相続分が無いものと指定された相続人は特別寄与料を負担せず,遺言により相続分が無いものと指定された相続人が遺留分侵害額請求権を行使したとしても特別寄与料は負担しない,としました。

これに対して,遺留分侵害額請求権を行使した相続人は,特別寄与料について遺留分に応じた額を負担すべきとして許可抗告が申立てられ,最高裁は次のように判断しました。

(最高裁利和5年10月26日決定)

最高裁は,「遺言により相続分がないものと指定された相続人は,遺留分侵害額請求権を行使したとしても,特別寄与料は負担しない」としました。

その理由としては,民法1050条5項(相続人が数人ある場合には,各相続人は,特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する)は,相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の負担割合について,相続人間の衡平に配慮しつつ,特別寄与料をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,相続人の構成,遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしているものの,同項は遺留分侵害額請求権の行使を定めておらず,そうであれば1050条5項の負担割合が法定相続分等から修正されないためとしています。

 

最高裁は,特別寄与料の負担割合について,遺言書などで定められた相続分に従うのであって,1050条5項が調整条項などを定めていない遺留分侵害額請求権の行使があっても負担割合は遺言書などで定められたとおりのままであるとしています。

この判例の事例であれば,Dさんは遺留分侵害額請求権を行使したCさんに対して特別寄与料を請求できないことになります。

 

相続の分野も民法改正などによって制度が変化していっています。

相続や遺言などでお困りの方は,池田総合法律事務所にご相談ください。

(小澤尚記(こざわなおき))