法人破産について (連載・全4回中第3回)
1.はじめに
これまで事業者の破産について、法人破産の概要(第1回)、代表者の債務整理を上手に行うために(第2回)についてご説明しました。
今回は、法人破産の申立の費用とスケジュールについて、ご説明したいと思います。
2.法人破産の費用
(1)第1回コラム「法人破産の概要」で、「法人が破産をするには、裁判所に破産を申し立てる必要があり、破産管財人の費用として一定額を予納する」という話をしました。
具体的には、名古屋地方裁判所では、法人の負債総額が1億円未満の場合、裁判所に納める予納金は60万円、負債総額1億円以上の場合予納金は80万円、同3億円以上の場合予納金は100万円と段階的に増えていきます。負債総額1000億円以上になると、予納金は1500万円以上となります。
一方、少額予納管財事件として取り扱われることになると、予納金は20万円で済みます。
少額予納管財事件として取り扱ってもらうためには、
① 弁護士が申立代理人となっている法人破産申し立てであること
② 申立代理人による財産調査がなされた上で、換価可能な財産が存在しないことが確実であること、又は申立時点の法人の財産が60万円未満であることが確実であること、又は60万円以上であっても換価容易な財産(例えば預貯金や保険解約返戻金等)しか存在しないこと
③ 賃借不動産の明渡(原状回復)が終了していること
④ リース物件の返還が完了していること
⑤ 一般債権者が50名以下であること
⑥ 労働債権者が10名以下であり、かつ、申立前に解雇されており、解雇に関連する諸手続き(源泉徴収票の作成・交付、離職票の交付、労働債権額の明示、労働者健康福祉機構に提出する証明書の作成)が完了していること。加えて労働債権者に対し、破産手続等に関する説明を行っていること
などの要件を満たす必要があります。
他に費用として、収入印紙、予納郵券、官報公告費用で計3万円程度が必要になります。
(2)また、法人破産の申立てを弁護士に依頼する場合、別途弁護士費用がかかります。
当事務所では、法人の負債総額等により50万円からお受けしています。他に、実費(郵便代、交通費等)がかかります。
(3)以上のように、法人破産を申し立てるには、決して少なくない費用が必要となりますので、費用の確保を慎重に検討して下さい。
3.法人破産のスケジュール
つぎに、法人破産のスケジュールについてご説明します。
(1)弁護士への相談、委任契約
まず始めに、弁護士に会社の状況(債務を抱えるに至った経緯)、債務の種類や金額、会社の資産(在庫、預金、不動産等)、従業員の人数や雇用形態などをお話しいただき、破産の方針を決定します。
(2)受任通知書の発送
弁護士から債権者に対し、破産予定であることを書面で通知します。
弁護士が破産申立てを受任してから、通常1~3日程度で発送することになります。なお、会社が営業を続けているようなときは、売掛金の回収見込み等も考え、受任通知のXデーを予め決めておいて対応します。
(3)会社財産等の保全、従業員の解雇、賃貸物件等の明渡し等
会社の財産が散逸することを防ぐため、破産の方針を決定後すぐに、弁護士が会社から財産(在庫、預金、不動産等)の引き渡しを受け管理を開始します。
また、従業員の解雇や賃貸物件の明渡し等を行います。
(4)破産申立て
破産の申し立てに必要な書類を準備し、裁判所に破産の申し立てをします。
弁護士が受任してから申し立てまで、通常1か月程度かかります。混乱が見込まれる場合には、ある程度資料が整っていれば、1週間程度で迅速に対応します。
(5)破産手続開始決定
破産の申し立てをしてから、書類に不備等がなければ、通常2週間程度で破産開始決定が出て、破産管財人が選任され、債権者集会の期日が決まります。なお、早期に管財人に引き継ぐことを要するケース(生鮮食料品を扱う会社等)では、事前に裁判所と打ち合わせの上、申立後比較的短期間で開始決定を出してもらうこともあります。
(6)破産管財人による財産調査・管理・換価
破産開始決定後、通常1週間以内に、破産管財人と会社代表者、申立代理人弁護士とで打ち合わせを行います。この時、申立代理人弁護士が管理していた会社財産等を破産管財人に引き継ぐことになります。
その後は、破産管財人により、財産調査、管理、換価が行われます。
(7)債権者集会
破産開始決定から通常3~4か月後に債権者集会が開かれます。債権者集会は1回で終わることもありますが、会社財産の換価、処分の状況によっては、複数回行われます。
(8)債権者への配当
破産管財人による会社財産の換価、処分が終了し、配当ができるような原資が確保された場合は、債権者への配当の手続きが行われます。
(9)終結、廃止決定
配当手続が終了すると、裁判所より終結決定が、配当を行わない場合は廃止決定がなされます。ここまでに1年程度を要することはよくあります。
終結決定または廃止決定により、会社の権利義務は消滅し、会社の法人格は消滅します。
次回は、法人の民事再生について、ご説明します。 (石田美果)