法的な紛争と税制の関係③  離婚と税金

紛争の場面で税金が問題になる場合の連載第3回のテーマは,『離婚と税金』です。

離婚をしたからといって原則として税金が課税されることはありませんが,例外的に税金がかかる場合があり,注意が必要です。

以下では,離婚に伴って典型的に税金が問題となるケースを取り上げます。

 

1 財産分与と税金

夫婦が婚姻中に築き上げた共有財産は,離婚時あるいは別居時を基準として,基本的に2分の1ずつに分けることになります。

これを『財産分与』(ざいさんぶんよ)と言います。

(1)財産分与が金銭で支払われる場合

財産分与が金銭で支払われる場合には,原則として税金はかかりません。

これは,財産分与を渡す側(分与者)にも,分与を受ける側でも同じです。

(2)財産分与が金銭以外の財産で行われる場合

しかし,金銭以外の財産(例えば,不動産)で財産分与をする場合には,譲渡所得税の対象となり,課税がされます。法的には,譲渡所得税の課税要件である「資産の譲渡」(所得税法33条1項)に該当し,譲渡所得が生じますので,この所得に対して所得税が課税されることになります。

そして,譲渡所得の額は財産分与時の時価で算出されることになります(時価であって,相続税評価額などで譲渡所得の額が計算されるわけではないことに注意が必要です)。

具体的には,離婚する場合に,例えば夫名義の所有物件(時価5000万円・購入価格4500万円)に夫婦が居住していたものの,夫が別居して自宅を出て行った場合に,妻が財産分与として夫名義の物件の財産分与を求めて,所有物件が夫から妻に財産分与された場合には,夫には時価5000万円の不動産を譲渡したことでの譲渡所得税が課税される可能性がある(時価5000万円に対して,そもそもの購入額=取得費4500万円ですので,その差額分が利益になり,利益分の500万円に対して譲渡所得がかかります)ことになります(実質的に夫婦共有財産であれば,分与する者が有した持分のみが譲渡所得の対象となる財産の移転と考えられるとする東京高裁判決もありますので,裁判例にも注意を払う必要があります)。

なお,居住用不動産については,税制上の優遇措置もあるので,優遇措置の視野に入れる必要があります。

(3)まとめ

したがって,弁護士として,離婚のご依頼をいただく場合,特に財産を分与する側にとって,金銭以外での財産分与は税金でさらに財産が減少するリスクがありますので,この点も十分考慮に入れて頂く必要があります。

 

2 慰謝料と税金

法的な紛争と税制の関係①(https://ikeda-lawoffice.com/law_column/)で詳しく触れていますが,離婚に伴う慰謝料も基本的には損害賠償金と捉えられますので,慰謝料を受け取った側に所得税が課税されることはありません。

実務的には,調停や訴訟での和解の場合,『慰謝料』という言葉を使わずに,『解決金』という用語で金銭の支払いを定めることがあります。

この場合には,『解決金』が損害賠償金の実質があるかどうかが問題となり,仮に損害賠償金の実質が無いということであれば,解決金を受け取った側に贈与税が課税される可能性があります。

税務署の調査にも対応できるように,調停の資料や訴訟資料は保管しておくことが大切です。

 

3 養育費と税金

(1)毎月払いの養育費の場合

毎月支払うことと定められている養育費は,養育費を受け取る側に贈与税は課税されません。

これは,養育費の支払いは,親の子に対する扶養義務を果たすためですので,通常必要と認められている金額であれば非課税とされているためです(相続税法21条の3第1項2号)。

同居している夫婦が生活費や教育費を出しても,生活費や教育費を受け取った側に贈与税が課税されないのと同じことです。

(2)一括払いの養育費の場合

養育費は原則,(1)のように,毎月後払いですが,合意により一括で受け取ることもありうるところです。

養育費を一括して受け取る場合,扶養義務を果たすために通常必要と認められる金額を超えるとして,受け取る側に贈与税が課税される可能性があります。

同居している夫婦が,子が例えば20歳になるまでの10年間分の生活費や教育費を前払いすることは基本的に無いことはご理解いただけることだろうと思います。

ご依頼を受ける中では,離婚した後も養育費をきちんと毎月支払ってくれるか心配なので,離婚時に一括で養育費を受け取りたいというご要望をいただくこともあります。

養育費を一括で受け取る場合には,贈与税が課税され,贈与税の税率は高率ですので,想定よりも多額の税金が課税され,実質的に養育費が目減りするという事態が生じえます。

(3)まとめ

したがって,将来にわたって養育費を受け取り続けられるかという心配はありますが,弁護士としては基本的に毎月払いでの養育費をおすすめすることになります。

 

4 最後に

最初にも触れていますが,離婚にともなって税金が課税されることは基本的にありません。しかし,場合によっては税金が生じますし,税金の点も含めて適切に対応する必要があります。

池田総合法律事務所では,税理士とも協働しながら,適切な解決に向けた対応をさせていただくことが可能ですので,離婚などでお悩みの方は池田総合法律事務所にご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉