法的な紛争と税制の関係④  生前贈与するなら気をつけたいこと

令和6年からの贈与税のルール変更その他

1 相続が開始すれば、遺言に従って、遺言がなければ法律の定めるところに従って、財産が承継されます。相続を待たずに、確実に財産を承継させたいという場合には生前に贈与を選択します。贈与は契約ですから、受ける方もしっかりとした契約意識が必要です。

相続税対策として、生前贈与で活用されているのは「暦年贈与」です。年間110万円以下の場合は贈与税は発生せず、税申告も不要です。そして、これまで、相続開始時から3年以内の相続人への贈与分は控除にならず持ち戻し相続財産に加算しなければなりませんでした。今年2024年の税制改正により、持ち戻しは3年加算から7年加算に拡大されました。年110万円の暦年贈与は開始から7年以上経過していないと非課税効果を得ることができなくなりました。

もっとも、加算の対象は、遺産を相続する相続人だけであり、相続権のない孫、子の配偶者(嫁や婿)への生前贈与なら、加算はされません。相続権のない親族への生前贈与こそ検討するに値します。

 

2 相続時精算課税制度、60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子や孫に行う累計2500万円までの贈与がいったん非課税で行える(贈与税非課税、2500万円を超えた分は一律20%の課税あり)というものですが、この制度を利用すれば、毎年110万円までの贈与分は相続時に加算されません。2024年から110万円まで基礎控除が認められ、相続時の加算無しで、年110万円の生前贈与が可能です。

 

3 生前贈与をより効果的にするためには、生命保険を利用するという方法もあります。例えば、親が子どもに資金を贈与し、子どもはもらった資金で保険料を支払います。この場合の保険契約は、親を被保険者、子どもを契約者・受取人とします。親が亡くなるまで保険金は下りないため、贈与資金の無駄遣いを防ぐことができます。

 

4 最近よく聞くNISA、口座開設の年の1月1日現在において18歳(2022年12月31日以前は20歳)以上の者を対象として、非課税口座で取得した上場株式等について、その配当やその上場株式等を売却したことにより生じた譲渡益が非課税とされる制度です。2024年からの「新しいNISA」では、資産所得倍増などの観点から、非課税期間が無期限となり、非課税保有限度額が拡大されました。生前贈与の資金を新しいNISAを利用して運用するといった方法が考えられます。

 

5 生前贈与の活用を検討するケースとはどんなケースかと言えば、財産を贈与したい人や贈与する目的が決まっているものの、遺言で財産を承継させることに不安がある場合だと思います。被相続人の財産が基礎控除以下の場合は相続税がかかりません。相続税の基礎控除額は相続人の数により変動し、相続人が1人の場合は3,600万円です。これより財産が少ないようであれば、相続税の計算上、生前贈与を行なうメリットはないとも言えます。

 

6 生前贈与は、相続に当たり、特別受益として相続の対象に持ち戻されることがありますので、その点に注意が必要です。共同相続人の中に被相続人から生前贈与などの特別の利益を受けた人がいる場合、相続人間の不公平を是正するため、この特別の利益を特別受益として相続財産に持ち戻す制度があります。各相続人の相続分を計算するときは、相続発生時において有した財産の価額に特別受益にあたる贈与の価額を加えます。特別受益にあたる生前贈与を受けた人は、特別受益を加えて計算した相続分から特別受益を除いた額の財産を受け取ります。生前贈与が特別受益として相続財産に持ち戻されるケースは、婚姻、養子縁組、生計の資本として贈与を受けた場合です。つまり、婚姻や養子縁組の際の持参金や開業資金、住宅購入資金などが該当し、通常の扶養の範囲に含まれるものは該当しません。

被相続人が特別受益の持ち戻しを免除する意思表示をした場合は持ち戻しの対象になりません(ただし、前記遺留分の制約は受けます)。また、婚姻期間が20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与についても持ち戻しの対象になりません。

 

財産の承継は、必要に応じて、また諸制度をよく考えて活用する必要があります。迷ったときには相談をされることをお勧めします。

<池田桂子>