法的な紛争と税制の関係⑤ 不動産取引
民事上の様々な紛争の結果として、不動産の所有権が移転する場合があります。例えば、遺贈や遺産分割等により不動産を相続する場合、離婚の際に居住不動産等を財産分与する場合、不動産を譲渡または贈与する場合などがあります。こうした場合に、課税される税金についてご紹介したいと思います。
また、併せて真正な登記名義の回復についてもお話ししたいと思います。なお、本コラムでは、当事者が個人の場合に限定してお話しします。
1 不動産を譲渡または贈与する場合
ア.不動産を譲渡する場合
譲渡する側に譲渡所得税が課されます。
なお、不動産の取得価格が、譲渡価格よりも高い場合は、譲渡により利益が出ていないため、譲渡所得税は非課税となります。
譲渡される側は非課税です。
ただし、時価と比較して譲渡価格が著しく低い場合は、実質的には贈与とみなされ、不動産を譲渡された側に、贈与税が課されます(みなし贈与税)。
一般に、譲渡価格が時価の8割を下回る場合は、みなし贈与と判断される可能性があると言われています。
イ.不動産を贈与する場合
贈与する側は非課税ですが、贈与を受ける側に贈与税が課されます。
贈与税を算出するための建物の価格は、固定資産税評価額が用いられます。
土地の価格は、国税庁が毎年公開する「路線価」を用いて算定します。
なお、上記ア、イどちらの場合も、不動産を取得した側に、別途不動産取得税(地方税)及び登録免許税(国税)が課されます。
2 不動産を相続する場合
遺贈や遺産分割等により不動産を相続する場合は、相続税が課されます。詳しくは、2024年8月1日付コラム(「法的な紛争と税制の関係② 相続と税金」で解説していますので、そちらをご参照ください。
3 財産分与により不動産を取得する場合
離婚の際に財産分与として、居住不動産等を取得する場合は、不動産を譲渡する側に、譲渡所得税が課されます。詳しくは2024年8月16日付コラム(「法的な紛争と税制の関係③ 離婚と税金」で解説していますので、そちらをご参照ください。
4 真正な登記名義の回復について
不動産の登記上の名義が、本来の所有者以外の名義になっている場合、これを本来の所有者の名義に修正する必要があります。
例えば、不動産の権利がAからBに移転したが、何らかの理由でBではなくC名義に移転登記がされてしまった場合、B名義に修正することになります。
このとき、C名義の登記を抹消して、A名義に戻し、その後B名義に移転登記をして訂正するというのが、本来のやり方です。
しかし、元の所有者(A)の協力が得られなかったり、誤った所有権の登記をもとに、第三者により抵当権等の設定登記がされた場合で、当該第三者の承諾が得られない場合には、登記名義を修正することが困難となります。そこで、C名義から直接B名義に「真正な登記名義の回復」を登記原因として移転登記をすることが認められています。
この真正な登記名義の回復による所有権移転登記を行うには、現在の登記が実体的な権利関係に合致しない理由や、真正な権利者が権利を有していること、真正な登記名義の回復の必要性があること等を記載した登記原因証明情報の提出が必要となります。
登記原因証明情報を作成するには、法律関係を把握し整理する必要があり、一定の専門知識を要しますので、真正な登記名義の回復を登記原因とする登記を行う必要がある場合は、専門家に相談されることをお勧めします。当法律事務所でもご相談を承ります。
なお、真正な登記名義の回復は、登記内容を修正するために行われるものなので、通常課税されることはありません。
但し、税務署は、登記原因が「真正な登記名義の回復」であれば課税をしないということではなく、登記に至った経緯を調査し、実質的に「贈与」に該当すると判断した場合には、贈与税が課されますので注意が必要です。
(石田美果)