法的な紛争と税制の関係⑥ 倒産と税務上の取り扱い
今回は、企業が倒産をした場合の税務上の取り扱いについて、考えてみたいと思います。
1.債権者の有している債権の取扱い
企業の倒産により、債権者は、債権の回収が不能ないしは著しく困難となりますが、こうした場合に、貸倒損失として処理出来るかという問題があります。
(1)金銭債権が法律上切り捨てられた場合
①会社更生法による更生計画認可、民事再生法による再生計画認可、特別清算に係る協定の認可の各決定により、免除された金額については、その決定が確定した日が属する事業年度の損金の額に算入することができます。
また、更生、民事再生、破産、特別清算のそれぞれの開始が申し立てられた早期の段階においても、債権額の100分の50に相当する金額を、同様に処理することも可能です。
なお、特別清算の場合は、貸倒損失として認められるのは、上記のように協定による場合だけで、協定ではなく、個別債権者との和解による債権放棄(いわゆる和解型の特別清算)については、当然に免除額について貸倒損失として処理できるものではありません。これを認めず、逆に、債権放棄を「寄附金」とした裁判例があります(東京地裁H29.1.19、控訴審東京高裁同7.26)。
協定型と和解型でこのような取扱いの差があるのは、特別清算の協定型においては、債権消滅にかかる協定及び計画内容の合理性が法令の規制及び裁判所の審査と決定によって客観的に担保されているのに対し、和解型の場合は、そのような法令の規制及び裁判所の審査と決定を欠いていることが大きな理由です。
したがって、特別清算の和解等で解決する場合は、経済的合理性という客観的要件を満たすかどうかの検討をする必要があります。
②法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定、行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって、免除された金額についても、損金の額に算入することは可能です。
これに属するものとしては、中小企業の事業再生等に関するガイドライン、 自然災害被災者債務整理ガイドラインに従い、債権者と協議し、簡易裁判所において、債務免除に関する合意(調停)が成立した場合、また、事業再生ADR制度を利用して合意に至った場合等、いわゆる準則型私的整理手続といわれるものが典型的です。
③債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済をうけることが出来ない場合に、その債務者に対して、書面で債権放棄の意思表示をした場合の、放棄をした金額
「債務超過」「弁済を受けることができない」といった要件に該当するかどうかの判断については、相応の資料の提出を求められます。
(2)債務者の法人格が消滅した場合
破産手続の場合は、上記と異なり、法的な債権の切捨手続がないまま、最終的に破産手続終結決定(配当がない場合は、廃止決定)の確定をもって、法人格が消滅し、その時点で、債権が消滅し、損金経理を経る必要もなく、貸倒があったと解されています。
2.資力喪失後の不動産譲渡における譲渡所得の取り扱い
不動産や株式等の譲渡については、通常は、譲渡益に対して譲渡所得税が課税されますが、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合に、強制換価手続、税務署等による滞納処分、債権者による強制執行、金融機関による担保権の実行としての任意競売、破産手続等により、資産を譲渡したことによる所得や強制執行手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡については、譲渡税は課税されません。
3.保証債務等の履行をするために、不動産を譲渡した場合の取扱い
(連帯)保証人、物上保証人、身元保証人等が、本来の債務者が債務を弁済しないときに、肩代わりのため、不動産等を売却して、その債務を弁済する場合に、譲渡所得の計算上、所得がなかったものとする特例があります。但し、
(1)本来の債務者が既に債務を弁済できない状態であるときに、債務の保証をしたものでないこと
(2)保証債務を履行するために土地建物等を売っていること
(3)履行をした保証債務の金額又は一部の金額が、本来の債務者から回収できなくなったこと(本来の債務者が破産をしている場合等が該当します。)
の3要件が必要です。
さらに、所得から控除出来る金額についても、制限があります。
所得がなかったことに出来る金額は、以下の金額のうち、一番低い金額です。
(1)肩代わりをした債務のうち、回収できなくなった金額
(2)保証債務を履行した人のその年の総所得金額等の合計額
(3)売った土地建物などの譲渡益の額
また、この特例をうけるためには、確定申告書の提出のほか、計算明細書その他特例の適用を受けるための要件を充足していることを証する資料の提出が必要です。
(池田伸之)