環境問題と再生エネルギーその他環境に関する連載2
~盛土と残土~
1 はじめに
2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害では,盛土の崩壊が疑われています。
それをうけ,国が「盛土による災害防止に向けた総点検」をすることになり,例えば愛知県では2019箇所を抽出し(盛土の総点検における点検対象箇所の抽出結果について – 愛知県 (pref.aichi.jp)),今後は土地利用制限の権限をもつ地方公共団体が具体的な点検を行うことになります。
2 盛土の規制について
盛土は,ほかの場所から持ってきた土を使って土地を平らに造成するなどのため,土を盛ることです。
適切に施工されていないと,盛土はもともとの地盤ではないため,崩壊しやすいという側面があります。
盛土は,宅地造成等規制法の定める宅地造成工事規制区域となっていれば,宅地造成工事の許可が必要になります。また,都市計画法の開発許可の対象にもなりえます。
さて,熱海市の土石流災害では,仮に盛土が原因であるとすれば,誰にどのような責任が生じるでしょうか。
まずは,土地所有者の責任が考えられます。民法717条(土地工作物責任)は,土地の占有者(=土地の現実の利用者)が第一義的に責任を負いますが,占有者が損害発生を防止するために必要な注意をしていれば,土地所有者に損害賠償責任が生じます。
土地所有者の責任は無過失責任ですので,盛土が通常有すべき安全性を欠いていた場合には,盛土の強度などについて認識をしていなくても,土地を所有しているという事実のみで土地所有者は損害賠償責任を負うことになります。
次に,盛土の施工業者についても,強度等に問題のある盛土をしたのであれば,土石流災害で被災した方に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。
従って,盛土は十分な強度計算に基づいて施工されなければ,人命の喪失や家屋の損壊など取り返しのつかない損害を生じさせ,当然その賠償額は高額になりますので,重大なビジネス上のリスクになりえます。
3 残土の規制について
盛土の原料となる土については,造成工事の区域内で一部の土地を切り土した場合にはその土が使われることもあるでしょうが,他の場所で生じた残土が利用されることもあります。
残土は,例えばトンネル工事をした場合には,山にトンネルの空間を空けますので,その分の土砂が残ります。これを残土(建設残土,建設発生土とも)といいます。
残土はただの土ですので,産業廃棄物処理法の「廃棄物」ではありません。地球の一部である土砂そのものはゴミとは言えないためです(昭和46年10月16日「環整43号」参照)。
もちろん,土砂ではなく汚泥となる場合(基準は,平成23年3月30日環廃産第110329004号を参照)や,陶器片や木材片等が混じっている土砂は土砂と廃棄物の混合物となりますので,全体として廃棄物となると考えるべき場合はあります。
では,純粋な土砂について,何か法規制があるかというと,従来は残土についての法規制は特にありませんでした。
しかし,残土を山のように積み上げたところ,それが崩落したなどといった残土の処理が問題となる事案もありましたので,愛知県内では以下の自治体で残土条例が定められています。
・半田市土砂等による埋立て等の規制に関する条例
・春日井市土砂等の埋立て等に関する条例
・刈谷市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例
・西尾市土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例
・常滑市土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例
・大府市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例
・尾張旭市土砂等の埋立て等に関する条例
・豊明市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例
・日進市土砂の採取及び埋立てに関する条例
・みよし市土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例
・長久手市土砂等の採取及び埋立て等に関する条例
・東郷町土質等規制条例
・扶桑町埋立て等の規制に関する条例
・阿久比町土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例
・南知多町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例
・美浜町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例
・武豊町土地の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例
条例の内容は,例えば半田市であれば,1000㎡以上の土砂等による盛土工事を行うためには工事着手前に市に届出をし,住民説明会を実施することなどが事業者に求められています。また,土地所有者についても,土地を適正に管理する責務なども定められています。
4 最後に
生命や身体を守るため,地域環境を保全していくためにも,適切な盛土の施工や残土の処理が必要になります。
特に,開発をする際などには,ディベロッパーにとっては細心の注意を払うべきです。
土地開発や残土処理などについて,お困りの点がありましたら,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。
〈小澤尚記〉