発信者情報開示請求
1.はじめに
SNSで誹謗中傷等をされた場合に、書き込みを行った人を特定するための手段として、発信者情報開示請求があります。
その概要については、令和2年8月10日付の法律コラムでご紹介させていただきましたが、令和3年に発信者情報開示請求の根拠法令となるプロバイダ責任制限法が改正され、令和4年10月1日に施行されましたので、今回その改正内容についてご紹介させていただきます。
2.新たな裁判手続(非訟手続)の創設
(1)権利を侵害されたとする者が、情報の発信者に対して、慰謝料請求等を行う場合、発信者の特定が必要になります。
それには、発信者の氏名・住所等を保有する経由プロバイダ(通信事業者等)を特定するために必要となるIPアドレス等の情報が、コンテンツプロバイダ(SNS事業者等)から開示されないと、当該経由プロバイダを特定することができないことから、改正前の発信者情報開示請求では、まず、コンテンツプロバイダに発信者情報開示仮処分を申し立てた後、(場合によっては消去禁止の仮処分を経て)経由プロバイダに対し発信者情報開示請求訴訟を提起するという二段階の手続きが必要でした。
(2)これに対し、今回創設された手続きでは、基本的に、発信者情報の開示を一つの手続きで行うことが可能となります。
具体的には、権利を侵害されたとする者が、裁判所に発信者情報開示命令を申し立てると、裁判所は、開示命令より緩やかな要件により、コンテンツプロバイダに対し、(当該コンテンツプロバイダが自らの保有するIPアドレス等により特定した)経由プロバイダの名称等を、申立人に提供することを命じることができます(提供命令)。
加えて、裁判所は、コンテンツプロバイダが保有するIPアドレス等の情報を、申立人には秘したまま、コンテンツプロバイダから経由プロバイダに提供させることができるようになるため、経由プロバイダに、自ら保有する発信者の氏名及び住所等を特定・保全させておくことができます(消去禁止命令)。これにより、発信者情報開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されてしまうことを防ぐことができます。
そして、上記により発信者情報が保全された状態で、発信者情報開示命令事件の審理が行われます。審理では、コンテンツプロバイダに対する開示命令の手続きと、経由プロバイダに対する開示命令の手続きが併合され、一体的に行われます。
3.開示請求を行うことができる範囲の見直し
近年普及しているSNSでは、システム上、投稿時のIPアドレス等を保存していないものがあり、投稿時のIPアドレスから通信経路をたどることにより発信者を特定することができないという課題がありました。
そこで、今回の改正により、SNSなどのログイン型サービス等において、発信者を特定するために必要となる場合には、投稿者がSNS等にログインした際の情報の開示を得ることが可能となりました。
これにより、SNSへのログイン時のIPアドレス等からも、発信者を特定することが出来るようになります。
(なお改正前も裁判所の個別の判断により、ログイン時のIPアドレス情報について開示請求が認容されるケースはあり、当事務所でもログイン時の情報が獲得できた事例があります。)
4.おわりに
発信者情報開示請求手続きは、改正によりいくつか見直しがされましたが、一般の方が自分で手続きを行うには大変複雑な手続きであり、専門的な知識が必要となります。誹謗中傷等でお悩みの方は、池田総合法律事務所にご相談下さい。
(石田美果)