相続問題が発生して気になる二つの期限―10ヶ月と4ヶ月

今年から相続税法改正により、相続税が増税されるということで、相続について関心が高まっています。20年ぶりの課税最低金額(基礎控除金額)の改正により定額控除部分が5000万円から3000万円に、また法定相続人数の比例控除額が相続人一人当たり1000万円から600万円に引き下げられました。3000万円+600万円×相続人の数の課税最低限を超えれば、相続税の申告と納付が必要であり、相続税納付の期限は、原則、被相続人の死亡から10ケ月以内です。このことはご存知の方も多いと思います。遺産分けの話し合いが10ケ月内に話がまとまらなくとも、法定相続分に従って、ひとまず、申告のうえ納付し、遺産に関する話し合いが決まった時点で、修正申告や更正請求を行います。

さて、被相続人が亡くなって、あたふたしているときに、気を付けなければならないのが、年度途中でなくなった被相続人の所得税の申告です。確定申告書の提出を必要とするだけの所得がある人が死亡した場合には、その相続人が、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ケ月を経過した日の前日までに、確定申告書を提出し、所得税を納付しなければならないのです(準確定申告といいます。)。相続人が二人以上いるときは、確定申告書は各相続人の連署による一つの書類で提出しなければならないとされています。一緒に提出できないときは、他の相続人の氏名を付記して各別に提出します。相続人は、被相続人の所得税納付義務を受け継ぎます。ですから、例えば、父親が亡くなったが、その父親にたくさんの所得があった場合には、相続人は話し合って、所得税を納める必要があるわけです。

では、被相続人に債務(借金)があった場合はどうでしょうか。まず、被相続人が税金を滞納しているケースを考えましょう。滞納税額等が相続財産よりも多いような場合には、民法上の限定承認をすればよく、相続人は、相続によって得た財産の限度においてその滞納税額等を納付すれば良いことになります。相続人が複数いれば、承継する税金を、民法の法定相続分、または遺言による相続分の指定によって按分して計算した額を負担することになります。

 遺産分割により実際に取得する財産の割合に応じてではなく、法定相続分等によって形式的に割り当てられることから、実際に相続によって得る財産の価額と、租税の負担額にアンバランスが生じます。この場合、相続によって取得した財産の価額が、負担する租税を超える相続人は、その超えた価額を限度として、他の相続人の承継する税額についても、その相続人が納付しない場合に、納付する義務が課せられています。

この被相続人の死亡年の所得税ですが、相続税法では、課税の計算上、被相続人の債務で相続開始時に存在する公租公課として、計算上控除されることになります。

これに対し、租税以外の債務の場合には、法定相続分によって当然に分割され、自分が分割負担をした分以上に他の相続人が支払いをしないときにも、責任を負うことはありません。               <池田桂子>