相続土地国庫帰属制度の運用状況

2023年4月27日から、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により取得した土地を手放して国庫に帰属させる、相続土地国庫帰属制度が始まりました。

制度の概要は、2023年5月17日のコラム説明をしましたが、今回は、その運用状況を紹介します。

 

相続土地国庫帰属制度の運用状況については、法務省のウェブサイトで、「相続土地国庫帰属制度の統計」と題して公開されています。

2024(令和6)年12月31日時点での内容は以下の通りです。

(出典:法務省ウェブサイト(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html))

1 申請件数
(1)総数   3,199件
(2)地目別
  田・畑:1,195件
  宅 地:1,135件
  山 林:  505件
  その他:  364件
2 帰属件数
(1)総数   1,186件
(2)種目別
  宅  地:466件
  農用地: 363件
  森 林:   50件
  その他: 307件

 

以上のように、全体としては、申請件数の総数3,199件に対し、4割近い(約37%)1,186件の帰属が認められています。内訳をみると、宅地の帰属件数は466件と比較的多く、森林は50件と現状ではなかなか認められにくい結果となっています。なお、申請件数における「地目別」と帰属件数における「種目別」には若干の違いがあります。これは、申請段階の「地目」は登記によるのに対し、帰属件数における「種目」は「申請者から提出された書面の審査、関係機関からの資料収集、実地調査などによって、客観的事実に基づいて、どの区分に当てはまるか判断」される(「相続土地国庫帰属制度のご案内[第2版]48頁)ためだと思われます。

一方で却下・不承認件数と取下げ件数は以下の通りです。

3 却下・不承認件数(令和6年12月31日現在)

※ 1つの事件で複数の却下の理由又は不承認の理由が認められる場合があります。

(1)却下件数    51件

(却下の理由)
・11件:現に通路の用に供されている土地(施行令第2条第1号)に該当した
・ 1件:現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地(施行令第2条第4号)に該当した
・ 7件:境界が明らかでない土地(法第2条第3項第5号)に該当した
・ 5件:承認申請が申請の権限を有しない者の申請(法第4条第1項第1号)に該当した
・31件:法第3条第1項及び施行規則第3条各号に定める添付書類の提出がなかった(法第4条第1項第2号)

(2)不承認件数    46件

(不承認の理由)
・4件:崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの(法第5条第1項第1号)に該当した
・20件:土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地(法第5条第1項第2号)に該当した
・1件:除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地(法第5条第1項第3号)に該当した
・2件:民法上の通行権利が現に妨げられている土地(施行令第4条第2項第1号)に該当した
・1件:所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(施行令第4条第2項第2号)に該当した
・1件:災害の危険により、土地や土地周辺の人、財産に被害を生じさせるおそれを防止するための措置が必要な土地(施行令第4条第3項第1号)に該当した
・19件:国による追加の整備が必要な森林(施行令第4条第3項第3号)に該当した
・5件:国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地(施行令第4条第3項第4号)に該当した
 

4 取下げ件数    500件

※ 取下げの原因の例

・自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
・隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
・農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
・審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した

却下・不承認件数は申請件数に対してそれほど多くありませんが、取下げ件数の中に「審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した」とあるとおり、却下・不承認をされる前に取り下げていることも理由の1つと考えられます。

また、申請をしたものの、自治体や国、隣地所有者等による活用がなされることになり、取下げに至るケースもあるようであり、申請をきっかけとして、土地が有効活用されるという点で望ましいものといえます。

 

以上のとおり、相続土地国庫帰属制度により、4割近くが国庫に帰属し、それ以外にも有効活用される土地が出てきていることは、制度による成果といえます。

本制度を申請するにあたっては、境界をある程度明らかにしたり、建物や担保権のある土地についてはそれらを整理したりするなど、それなりの準備が必要です。

本制度の申請を検討されている方は、早い段階で、一度専門家にご相談されることをお勧めします。

(川瀬裕久)