相続手続の変更点について(その2)(不動産、預貯金の調査)

1 はじめに

相続が始まると、亡くなった方(被相続人)の財産(相続財産や遺産と言います)を相続人などが引き継ぐことになります。

遺言書があれば原則として遺言書の記載通りに、遺言書がない場合には、相続人同士で話し合い(遺産分割協議)をして、誰がどの財産を引き継ぐか(遺産をどう分割するか)を決めます。

しかしながら、特に遺言書がない場合には、そもそも被相続人がどのような財産を持っていたか分からないと分け方を決めることが出来ません。そのため、遺産分割協議の前に、まずは遺産を把握するための調査が必要となります。

 

2 遺産調査の概要

相続人が被相続人の配偶者や子で、生前に交流があった場合には、生前の資産状況や存在しそうな財産がある程度把握できていることが多いため、不動産や預貯金などの主な財産を把握することは比較的やりやすいです。もっとも、最近では、通帳を紙で発行せずWEB上のみで管理をする預金や、いわゆる仮想通貨のようなデジタル財産など、本人以外が把握しにくい財産もあります。

相続人が被相続人の甥、姪等で、生前にほとんど交流が無いような場合には、一から相続財産を調査することになります。一般的には自宅に残された書類や郵便物、通帳の取引履歴などを手がかりに調査をしますが、自宅のある市区町村以外の市区町村にある不動産や紙の通帳が発行されていない預貯金などは見落とすこともあり得ます。

昨今は、一人暮らしの高齢者も増えており、こうした事態が生じる可能性もより高くなっていると思われます。

 

3 近時の変更点

このような現状を踏まえ、相続手続において、預貯金と不動産において、財産の調査をしやすくする制度が始まります。

(1)預貯金

令和6年4月1日に施行された、「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(いわゆる「口座管理法」)により、生前にマイナンバーが紐付けされた(付番された)口座については、相続人が金融機関の窓口を通じて預金保険機構に請求することにより、当該金融機関以外の口座も含め、マイナンバーが付番された全口座の口座情報が一括して相続人に通知されるようになります(口座管理法8条)。(実際に制度として動き始めるのは、令和7年3月頃になるようです。)

生前にマイナンバーを届け出る(付番する)必要がありますが、預金口座の把握はかなりしやすくなります。

(2)不動産

現在、不動産は固定資産税課税台帳という形で、その不動産が所在する市区町村が管理しており、被相続人の不動産を調査する際には、当該市区町村に所在する不動産を所有者別にまとめた「名寄帳」を確認するということをしていましたが、そもそも被相続人の不動産が存在する市区町村がわからないと、名寄帳を確認することもできないという状態でした。

この点については、いわゆる所有者不明土地解消のための法改正の一環として、全国の不動産を一括で照会できる「所有不動産記録証明制度」が令和8年2月から始まる予定になっています。この制度が始まれば、被相続人名義の不動産の見落としも避けられることになります。

 

4 遺言書・財産目録作成のすすめ

以上のとおり、被相続人の遺産を調査しやすくするための制度が順次始まっていきますが、こうした制度によっても、全ての財産を把握することは困難です。相続人が財産調査で困らないよう、遺言書か、せめてご自身の所有する財産(プラスの財産だけで無く借金、連帯保証などのマイナスの財産も)を記載した財産目録を生前に作成されておくことをおすすめします。

(川瀬 裕久)