空き家への対処は地域で、相続人で―対処法の検討と実行は進んでいます
隣家が空き家となって長らく誰も住んでいない…、となると、防犯上、衛生上などいろいろな問題が生じてきます。そのような事態は他人事ではありません。国内住宅総数に占める空き家率は、2018年10月時点の住宅・土地統計調査によると13.6パーセント、戸数では846万戸に上ります。空き家のうち、347万戸が賃貸や売却用以外で長期にわたっての不在住宅や取り壊し予定の住宅であるということです。一人暮らしを含めた世帯数よりも住宅数が多い状態は40年以上も続いています。
高齢化社会の進展により急速な空き家が増加し、また、所有者自身が空き家の管理や活用に問題を抱えているという現状に国も手をこまねいてるわけではありません。平成26年には、空き家等対策の推進に関する特別措置法が成立し、適切に管理されていない空き家を「特定空家」に指定することができるとし、助言・指導・勧告・命令ができること、特定空家に対して罰金や行政代執行ができることになりました。
空き家かどうかは、具体的に、1年間を通して人の出入りの有無や水道・電気・ガスの使用状況などから総合的に見て判断します。
特定空家に指定された後に改善を勧告され、状況が改善されないと、固定資産税等の優遇措置が適用されずに従来に比して土地の税金が高くなったりするなどのデメリットがあります。さらに所有者が対処しないと、市町村は所有者に改善命令を出します。それでも改善が見られないと、行政機関が所有者に代わって撤去する等し、その費用を所有者に請求する「行政代執行」へと進みます。
災害対策基本法や建築基準法にも対処規定がありますが、建築基準法では保安上危険、著しく衛生上有害といった判断や近隣被害も考慮されます。
また、最近では、空き家でなくても、また老朽化していなくても、火事や自然災害で損壊した建築物、集積物、立木なども生じていて、それらへの対応も含めて、条例を作って対応する自治体も出てきました。
このように、空き家を作らないための法整備は、遅ればせながら進んでいます。お知らせしておきたいことに、「空き家に係る譲渡所得税の特別控除の特例」があります。
相続日から3年を経過する年の12月31日までに、被相続人の居住の用に供していた家屋を相続した相続人が、その家屋(ただし一定の耐震基準を満たしたもの)や取壊した後の土地を譲渡した場合に、家屋又は土地の譲渡所得から最大3000万円を控除することができる制度があります。令和元年の改正により、特例対象が、被相続人が相続直前に居住していたことが要件とされていましたところ、老人ホーム等に入居していた場合(要介護認定が必要)も適用対象とされ、また適用期間が4年延長されました。
空き家といえば一軒家を想像しがちですが、分譲マンションでも空き家は発生します。分譲マンションでは、区分所有権法上、解体には、原則として所有者全員の同意が必要となります。また、建て替えには所有者の5分の4の同意が必要です。やがて来る老朽化に備えて、管理体制を整備しておくことや解体費用も含めて積み立てをするなど、住民で作る管理組合の姿勢や備えが鍵といえます。
問題は簡単ではありません。空き家であるどころか、長年相続手続きがなされず、したがって不動産登記の変更もなされないまま推移して、実際の所有者がだれか不明なままになってしまっている状況は、全国に広がっています。
①相続等による所有者不明の発生を予防するための仕組み、と②所有者不明な土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みについて、民法の基本的な枠組みにかかわる規律について現在検討が重ねられているところです。
①については、相続登記の申請義務化や土地の所有権の放棄の可否、遺産分割を放置しないようにする方策、②については、通常の共有関係と遺産における共有関係について、管理や変更・処分の規律の明確化、管理に関する行為についての同意取得の方法、さらに、財産管理制度の見直し、相隣関係の見直し―隣地への管理措置請求、越境した枝の切除、境界調査などの場合の隣地の使用請求などですが、法制審議会では、新たに民法・不動産登記法部会が設置され、審議が進んでいます。
まずは、人口減少や地域経済により縮小していく都会、地方に対して、住む人々がどのように自分たちの周りを快適な住環境にしようとしているのかが課題であり、すぐに取り壊しにいきつくのではなく、賃貸による利活用、期限を区切った見直し(定期借地、定期建物賃貸借)など、いろいろな手法を通じて、柔軟に対応を検討する視点が求められているように思います。ご本人、ご親族からの相談、また、近隣との問題を抱えておられましたら、お気軽にご相談下さい。
<池田桂子>