第3回 相続土地国庫帰属制度について

令和5年4月27日から、「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。

本コラムでは、この制度についてQA方式で概要を説明します。

 

Q1 相続土地国庫帰属制度とは何ですか?

A1 相続土地国庫帰属制度とは、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により取得した土地を手放して、国庫に帰属させる制度です。

 

Q2 なぜこのような制度が設けられたのですか。

A2 土地利用ニーズの低下等により、不動産によっては所有する負担の方が大きいケースが増えてきました。

いらない不動産は手放すことができればこうした負担は無くなるのですが、これまでは不動産を手放す、放棄するという手段がなく、ひとたび所有した不動産は原則として誰かに譲渡するまで保有し続けなければなりませんでした。

その結果、特に、相続等により自ら望まずに土地を取得した場合に、管理が十分になされないという事態を招いていました。

こうした事態を改善するため、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しの一環として、令和3年4月21日に、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、令和5年4月27日より、土地を手放すための制度として、相続土地国庫帰属制度が開始しました。

 

Q3 相続放棄との違いは何ですか。

A3 欲しくない土地を相続しない方法としては、「相続放棄」をするという方法もありますが、相続放棄は、基本的に全ての遺産を相続しないという制度ですので、特定の土地のみを相続しないという選択をすることができません。

それに対して、特定の土地を手放すことができるのがこの制度の特徴です。

 

Q4 どんな土地を手放すことができるのですか。

A4 制度の対象となるのは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により取得した土地です。したがって、売買や贈与で取得した土地は原則として対象とはなりません。また、後述の通り、土地についていくつかの要件がありますので、それらの要件を満たす必要があります。

一方で、相続によって取得した土地であれば、令和5年4月27日より前に取得した土地も対象となり得ます。

 

Q5 この制度を利用するにはどのような手続をとれば良いのですか。

A5 ①手放す(国庫帰属する)事を望む土地を管轄する法務局・地方法務局に国庫帰属の承認申請書を提出し、審査手数料(※)を納付します。

法務局担当官により、②書面審査、③実地調査、が行われ、法律上の要件を満たすか否かを判断します。

法律上の要件を満たすと判断された場合には、④法務大臣・管轄法務局長による承認がなされます。

⑤承認後30日以内に負担金(※)を納付することにより、国庫帰属がなされます。

※審査手数料と負担金の詳細についてはQ7をご覧ください。

 

Q6 法律上の要件とはどのようなものがありますか。

A6 法律上の要件は、(1)当該事由があると国庫帰属の承認申請すらできないという却下要件と、(2)当該事由があると承認が認められない不承認要件があります。

(1)の却下要件は以下のとおりです。

a 建物がある土地

b 担保権(抵当権など)や使用収益権(賃借権など)が設定されている土地

c 他人の利用が予定されている土地 例:現に道路として利用されている土地

d 特定有害物質により土壌汚染されている土地

e 境界が明らかでない土地・所有権の存否や帰属、範囲について争いがある土地

(2)の不承認要件は以下のとおりです。

a 一定の勾配・高さの崖があって、かつ、管理に過分な費用・労力がかかる土地

b 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

有体物の例:果樹園の樹木、建物には該当しない廃屋、放置車両など

c 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地

有体物の例:産業廃棄物、地下にある既存建物の基礎部分やコンクリート片

d 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

e その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

具体例:

(a)災害の危険により、土地周辺の人や財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地、

(b)土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人、農産物、樹木に被害を生じさせる土地

 

Q7 費用はどのくらいかかりますか。

A7 承認申請をした段階で、審査手数料として土地一筆当たり14,000円が必要となるほか、承認がなされた後に、10年分の土地管理費相当額を負担金として納める必要があります。

審査手数料は、承認申請書に収入印紙を貼付して納付します。複数の土地をまとめて承認申請する場合であっても、特に軽減はなく(例えば5筆の土地をまとめて申請する場合には、14,000円×5筆=70,000円)、また、申請を途中で取り下げたり、却下をされたりした場合であっても返還されません。

負担金は、20万円が基本となっていますが、市街化区域等の宅地・農地や森林については、土地の面積に応じて別途算定されます。

例:面積が100㎡の市街化区域内の宅地 548,000円

面積が100㎡の農用地区域内の農地 329,000円

面積が100㎡の森林               215,000円

こうした例外にあたるケースの算定式については、法務省のウェブサイト( https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html )上に記載をされていますし、負担金額の自動計算シートも公開されていますので、そちらを用いて計算をすることが可能です。

 

制度の概要は以上のとおりです。

A6に記載したとおり、国庫帰属の承認を受けるためには様々な要件があり、手放したいと考える土地が却下要件、不承認要件のいずれかに該当してしまうということも少なくないと思います。また、A7に記載したとおり、国庫に帰属させるためにはそれなりの費用もかかります。

しかしながら、負担となっている土地を手放すことができる制度が出来たこと自体は画期的なことですし、不承認要件該当性の判断については、今後の運用に委ねられている部分もあります。

本制度を利用して土地を手放したい、あるいは、本制度を利用できそうか知りたいという方は、ぜひ池田総合法律事務所にご相談ください。

(川瀬裕久)