組織再編と税務署長の「否認」

課税の問題は企業活動では常に気を配るべき重要な事柄のひとつです。

できれば、法人といえども課税は少ない方がよいに決まっています。

 

憲法は、84条で、租税法律主義を定めています。

国家権力による恣意的な課税を許さず、民意を反映した国会の議決による法律によって、定めるという近代憲法の柱の一つです。

したがって、課税要件は、法律によって明確に定められ、納税者である国民の予測可能性を害するものであってはならないはずですが、税法によっては、その要件が必ずしも明確でないものもあります。

 

法人税法には、①同族会社間の行為、②組織再編成、③連結法人の場合、税務署長は、「行為又は計算」が「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ときには、これを否認して課税することができるとしています。

 

上記の各場合には、制度が悪用されて脱法行為として利用される場合が想定されるために、それに備えての規定ですが、何をもって「不当に減少」させるかが必ずしも明確ではなく、要は、脱法行為は許さないということを言っているにすぎず、解釈論でその適用範囲を絞っていく必要があります。

否認対象とする金額が大きく、税務署長相手の訴訟に至ることも珍しくなく、最近は、これについて皆さんも新聞記事等で目にする機会が多いと思います。

 

ヤフーのソフトバンクの子会社(Y会社)買収に伴う欠損金処理に関し、脱税か節税か、争われた事件を取り上げてみます。

事案は以下の通りです。

・ヤフーの代表取締役社長のAは、ソフトバンク(ヤフーの筆頭株主)の完全子会社であるY社(多額の未処理欠損金額を保有)の取締役副社長に就任。

・その約2ヶ月後、ヤフーは、ソフトバンクからY社の株式全てを譲り受け、ヤフーの完全子会社とした。

・ヤフーはその約1ヶ月後、Y社を吸収合併した。

・ヤフーは法人税の確定申告にあたり、Y社の未処理欠損金542億円を引き継いだとして、これをヤフーの欠損金とみなし、損金の額に算入した。(双方の常務取締役以上の役員のいずれかの者が、合併後にそれぞれ合併会社の常務取締役以上の役員になる見込みがあるときには、未処理欠損金額の引継ぎを制限されないという法の規定があります。)

・税務署長は、組織再編における行為計算の否認規定に該当するとして、上記の処理を認めず、ヤフーに対し、法人税の更正処分、過少申告加算税を賦課をした。

 

ヤフー側は、その取消を求めて、訴訟提起のうえ、最高裁まで争われ、平成28年2月29日に判決が出て、ヤフー側が最終的に敗訴しました。

 

最高裁は、「法人税の負担を不当に減少させる」とは、租税回避の手段として濫用することを指すとし、その判断基準として

・通常は想定されない組織再編成の手段や方法にもとづき、実態とは乖離した形式を作り出す等不自然かどうか

・税負担の減少以外に、そのような行為を行う合理的理由とする事案目的その他の事由が存在するか

という点をあげています。

 

そして、この例では、一連の組織再編が、約543億円の未処理欠損金額を引き継がせるために、ごく短期間のうちに計画的に実行され、副社長への就任もこの要件を満たすためであると判決し、副社長の就任に関しては上記の債務引継ぎのスキームが提案された以降に行われ、事業上の目的や必要性が具体的に協議された形跡がないこと、就任期間がわずか3ヶ月程度であること、その業務内容も合併に向けた準備やその後の事業計画にとどまること、代表権のない非常勤取締役で、役員報酬もY社からもらっておらず、専任の担当業務もなかったことから、引継ぎを認める役員としての実質を備えず、不自然なもので、税負担の減少以外に、合理的な理由という事業目的があるとはいえない、としています。

 

今回のこの判例の事案は、結論としては、妥当なものと考えられていますが、形式的に課税要件を充足している場合に、それが、「租税回避の手段」として行われたということが、どういう場合をいうのか、必ずしも明らかにはされていないものと考えられます。

不自然な形式を作り出しているか、その他の事業目的はあるのかどうか、という判断基準も、結局、脱法行為は認めないということを言い直しているにすぎず、納税者がこうした行為を行おうとする場合の予測可能性をクリアにしているとは思えません。この事例でも税理士、弁護士等の法的な専門家の検討は経てきているでしょうが、それでもノーとされたわけで、慎重なうえにも慎重な対応が必要とされることになるでしょう。(池田伸之)