職務開発制度の見直しをお忘れなく!~ガイドラインの施行で会社と発明者従業員の関係はどう変わる~

昨年7月に職務発明に関する改正を含む特許法の改正法が公布され、その施行が平成28年4月1日に予定されています。新しい法律では、まず①「使用者は規則をあらかじめ定めることにより、従業者のなした職務発明について特許を受ける権利を原始取得することができる」と使用者帰属制度を導入し、ともすれば、発明の権利の帰属が不明瞭なまま推移し争いになる不安定性を解消しようとしています。また、②「特許を受ける権利を使用者に取得させた発明者(従業者)は、使用者に対して、相当な金銭その他の経済的利益を請求する権利を有する」とし、発明者に相当の利益の支払請求権を認めています。③相当対価を決定するための手続きに関する指針(ガイドライン)が4月1日に経済産業省告示として公表されることになりました。

 

会社としては、発明者(従業者)に職務発明の完成後は予告していた通りに会社が権利取得する旨の条項を整備しておく必要があるといえます。

 

ガイドラインでは、相当の利益については、企業の利益に対する発明それ自体の貢献度、発明者の発明への貢献度、従前の裁判例や売り上げ実績に応じた方法で必ずしも決定することは要しないとしています。従って、従来のような実績補償の方式ばかりでなく、実績にとらわれない金銭的利益の付与や金銭的利益以外の経済的利益の付与も可能になったといえます。ガイドラインは、会社の設ける相当利益の補償の基準を定めるにつき、上限額を定めることのみをもって直ちに不合理性を肯定するとは限らないとしています。

 

また、金銭以外の相当の利益として考えられる例は、ストック・オプションの付与、留学の機会の付与、昇給を伴う昇進や昇格などが例示されています。

 

会社の一方的な社内規定の設置は好ましくありません。従業員の全員と協議することはできなくとも、従業員を正当に代表する者を通じて協議を行うなど十分な意見聴取や協議がなされることが必要です。また、従業員からの意見聴取に際しては、期待利益への補償を考える方式ならば市場規模の予測や利益予想、特許の寄与度の予想に関する資料を、売上実績に対応する補償を考える方式ならば、売上高や発明をもとにするライセンス契約の予定する実施料や利益内容、その根拠となるような資料を示すべきでしょう。

 

さらに、こうした会社との取り決めを従業員に対して開示することをガイドラインは求めているといえます。

 

なお、補償要求は退職者との間で、よく起きています。退職時に発明による対価を含めて退職時の給付を一括処理するように定めておくことも、トラブル防止の大切なポイントとなります。

 

発明を促す企業風土を醸成するには、権利帰属を安定させるとともに、従業員にはそれなりの対価を創意工夫することが望ましいところです。会社と発明者(従業者)との合理性のある取り決めについては、後日予想外に補償を求める請求がなされた場合にも、判断を求められた裁判所は、その交渉過程とともに、これを基本的に尊重するということになることを法律は想定しているのです。皆さまの企業や組織ではどのような考えをもって臨まれていますか。これを機会に、是非見直しを!<池田桂子>