自動車に対する強制執行

判決等の債務名義を得ても、相手方が任意にその支払いをしないときには、強制執行を検討しますが、依頼者の方から、「債務者は高級外車に乗っているので、差押えしたい。」と言われることがありますので、今回は自動車に対する強制執行(自動車執行といいます)について、お話します。

 

自動車執行の対象となる自動車は、道路運送車両法13条1項の登録自動車、いわゆるナンバーのある自動車で、軽自動車等は除外されており、今回はこれを除外してお話します(軽自動車等については、動産類への強制執行と同様となります。)。

 

まず、要件として、登録上の所有者と債務者が一致しなくては、強制執行はできません。使用者欄が債務者であったり、現実に使用しているのが債務者であっても、強制執行はできません。ローンで自動車を購入したような場合は、ローン会社の名義で登録されている場合がありますので、事前に登録事項証明書を取得して所有者の確認をする必要があります。ナンバーがわかっていても、車台番号がわからないと、私有地の放置車両のケースの場合を除いて、登録事項証明書を発行してもらえません。車台番号は、車体に打刻されていますが、外から見えにくい位置にあり、通常はわかりません。このような場合は、強制執行を弁護士へ依頼して、その調査の一環として、弁護士法による照会を利用することにより、ナンバーしかわからない場合でも、登録事項証明書を入手することが出来ます。登録上の名義と債務者が一致すれば、申立が可能となり、登録上の使用の本拠地を管轄する地方裁判所に申立をして、裁判所の決定が出れば、差押をした旨登録され、これで第三者に売却をしようとしても、普通のルートでは売却できなくなります。

 

しかし、これだけでは債権の回収はできません。開始決定には、自動車を執行官に引き渡すべき旨記載されており、執行官が引渡しを受けて、売却をするということになります。但し、自動車は簡単に移動して隠匿することができますので、通常は、債務者に開始決定が届く前に、執行官による引上げの執行を行います。自動車の所在は、執行官が捜してくれるわけではないので、債権者の側で調査をすることになり、債権者の方も通常同行します。

 

引渡を受けた後は、執行官が場所を定めて、売却までの間保管をしますが、予め債権者の方で保管費用を予納しておく必要があり、売却代金から後日、立替えた保管費用の返還を受けることになります。

 

過去に自動車執行を行ったことがありますが、執行の途中で逃げられたりしたこともあります(逃げられないよう、自動車等でふさぐ等の対応が必要です。)。また、大型トラックの売却代金の分割金を、初回から支払わず、トラック自体を回収するため引渡の仮処分を申立したケースではありますが、車の回収はできたものの、強制執行を察知したのか、新品のタイヤが全て古タイヤに交換されていて、数百万円の損害が発生したというようなこともありました。

 

昨今、世界的な半導体不足から、新車も納期が大幅に遅れる等している状況で、中古車市場が活気を得て、価格も上がっているようです。上述したように、自動車の強制執行は、難点もありますが、強制執行の方法として十分に検討には値すると思います。強制執行に関するご相談、受任にも池田総合法律事務所は対応しておりますので、ご利用下さい。              (池田伸之)