贈与税による「時価」とは

贈与税における財産の価額については、相続税法で、取得時の「時価」によるとされています。

但し、その時価評価の方法については、直接法律では定められておらず、納税者間の公平の確保、納税者、課税当局の便宜や時価評価のための経費の節減といった観点から、国税庁は、財産評価基本通達を定めて、この通達に従って実際の評価が行われています。

 

そして、判例も「この評価方法(財産評価基本通達)によって適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の有しない限り、贈与時における当該不動産の適正な時価を上回るものでないと推認するのが相当である」としています。

 

もってまわった言い方でわかりにくいのですが、つまるところ、課税当局は、「時価」について、通達による評価額を上回るような課税をすることはできませんが、納税者側は、特別な事情があるときは、時価が評価通達による金額を下回ることを主張することができるということになります。

 

特別な事情があるかどうかで、争われた裁判例があります(平成27年12月17日東京高裁判決)。築50年近い低層4階建てのマンションの居室の贈与を受けたのですが、贈与の前年に、マンションの建替え決議がなされて、管理組合、建築業者との間で、新マンション建設の基本合意を交わされ、基本計画も管理組合で承認をされていたケースです。

さらに、贈与後には、建設会社との間の等価交換契約も交わされ、その際のマンションの居室の評価は9664万円とされています。

 

ところが、納税者側は、通達に従った場合の金額(7206万円余)より時価が下回る特別な事情があると主張をして、不動産鑑定書を提出し、他の同種の近隣物件の取引価格等を参考に、2300万円と評価をして申告をしました。これに対して、課税当局が通達による評価金額にすべきとして、更正処分等をして争いとなりました。

 

このマンションは、築年数が50年近くて居住性も低く、居室の取引価格は低額で2~3000万円程度であるのに対し、低層で土地が広いことから、活用されていない余剰の容積率があり、そのため等価交換契約では9664万円という高額な評価となっていたので、このギャップをどう考えるかが問題となる訳です。

 

この裁判例では、マンションの管理組合が、贈与を受けた時点で、前述したように既に建替え決議をしており、建替えが実現する蓋然性が高かったとして、通達によることを不当とするような特別な事情はなかったと、課税当局の主張を認めています。

 

建替え決議は、区分所有者数と議決権総数の5分の4以上の賛成を必要とし、容易に行えないのが実情であり、この大きなハードルを超えて、不動産の有効活用が出来るような段階に至った後で、贈与が行われたという事実経過の点が、裁判所の判断に大きく影響したのだと思います。

 

このような例を参考にすると、築年数の古いマンションは、容積率の余剰のある物件が相当数あり、こうしたマンションについての贈与は、遅くとも建替え決議の前に実行しておいた方が得策と言えます。マンションの老朽化で建替えが話題となる場合、マンション管理組合やその組合員の構成員である所有者の間では、解決しておく問題があるかどうか点検しておくことが大切です。抜け落ちている問題がないか、ご相談されることをお勧めします。    (池田伸之)