身元保証は必要?約束するのなら契約を見直しましょう!
春は就職の季節。新しいスタートでいろいろな書類を会社に提出することが求められます。求められたら提出するのが当たり前という意識が雇う側にも雇われる側にもあり、従来の慣行をそのまま続けているということも少なくないと思います。
気を付けていただきたいものの一つが身元保証契約書です。企業が採用した被雇用者の身元を第三者である身元保証人に保証させる書類です。身元保証人が被雇用者の経歴や素性に問題がないか、万一、被雇用者が会社に損害を与えた場合に被雇用者と連帯して賠償責任を負うことを約束する文面になっています。
このような場合、多くは親や兄弟が保証人になることが多いと考えられます。会社によっては、身元保証人を両親等一定の関係にある親族に指定する場合もあると聞きます。
身元保証契約に関する法律では、保証期間は5年が限度、保証期間を定めなければ期間は3年。契約の更新が可能ですが、保証期間や内容に変更があればそれを保証人に遅滞なく通知しなければ責任を問えないと規定されています。契約の更新を通知された保証人はそれ以降の契約を解除することができます。
また、2020年4月に改正された民法では、保証人が支払いの責任を負う金額の上限額を定める必要があります。連帯保証人の保護強化を目的に、極度額(上限額)の定めのない連帯保証は契約自体が無効とされることになりました。身元保証契約においても、今後は保証の上限額を定めておかなければならないことと解され、注意が必要です。ひな型を用意しておられる場合には、連帯保証条項の見直しをしましょう。
賠償の上限額ですが、仮に1億円と定めて身元保証を交わしても、起きた事象について、業務上の横領のような従業被雇用者(従業員)の側に責任が明確にあるような場合はともかく、事故等の多くは、雇用者(会社)側に過失はなかったのか、従業員となった社員の仕事の変化や状況など一切の事情を検討すべきことが多く、身元保証契約を締結する時点で、具体的な金額の定めをしたから、それで足りるということにはならないものです。実際、身元保証書を交わしている事案でも、多額の請求額が要求された場合に、裁判所が情状酌量して減額を命じた(認容額において)裁判例もあります。
被雇用者に支払われる給与額を考慮した現実的な上限を一つの目安として、例えば月給の12ケ月分といった具体的な内容を念頭に置いておくべきではないでしょうか。1億円というような法外な上限額を定めたとしても実質的にみて上限額を定めたことにならず無効とされる余地もあります。
以上のような諸点を前提として、身元保証を交わす意味はどこにあるのかですが、若い従業員が、例えば、精神疾患を発症したといった場合には、将来のことも考えて、身元保証人がいれば、休職や退職をめぐる話し合いにおいて身元保証人が重要な役割を果たすということを期待することができると考えられます。金銭保証の意味合いよりも人物保証としての意義を考えれば、身元保証を得ておくことは、それなりの意味はあるものとも思います。しかし、ネットなどで本人の素性など個人情報もある程度確認できる時代ですから、従来の慣行だからそのまま続けるというのではなく、身元保証を約束する意味があるか否かを、今一度検討していただきたいものです。
また、従業員の身元保証に関しては、就業規則にも定めて、従業員に周知しておかれるとトラブル防止にもつながると思います。 <池田桂子>