転居先の探索―弁護士会からの照会手続きは重要!
裁判所に訴えを起こすには、相手の住所がわからないと何とも手続きは進みません。
通常、住民票上の住所に住んでいることが多いと思いますが、
住民票とは異なる住所に実際住んでいるときには、その転居先を探索するなどして、
実際に訴状などの申立て書類が届く場所が判明していることが必要です。
今年2月26日、愛知県弁護士会が日本郵政グループに行った転居先住所に関する問い合わせを
日本郵政側が回答を拒否した事案につき、回答拒否は違法だと、同社に対して損害賠償を
求めていた裁判で日本郵政が敗訴した事件が報道されました。
第1審の地方裁判所の判断は、弁護士会側の請求を棄却しましたが、
名古屋高等裁判所は、判断を変更し、日本郵便の過失を認めて
1万円(請求額は30万円)の支払いを認めました。
弁護士は、詐欺被害の被害者の依頼を受けて、加害者の転居先住所を探索していたのです。
照会拒否を受けた愛知県弁護士会は、こうした拒否事例が後を絶たないとして、
日本郵政に対して回答拒否は違法だと訴えていたものです。
裁判を受ける権利があっても、実現する方法が十分でなければ、
絵に描いた餅になってしまいます。弁護士は、訴訟等の準備のため、
依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、
事実を調査することが職務上認められています。
円滑にそのような職務上の活動を行うために弁護士法では、弁護士会を通じて、
官公署または公私の団体に対して必要な事項の報告を求めることができることになっています。
勿論、こうした照会は公正な弁護士会の審査を経て、照会先に送られます。
照会先には、回答義務があると考えられていますが(裁判例でも報告・回答義務を
認めています)、少なからず、回答拒否事例が見られます。
回答して損害賠償の責任を問われたら困るといったことを不安に思う官公署もあるようです。
日弁連によると、各地の弁護士会が官公庁や企業・事業所にたいして行った照会に対して
85%が回答されるものの、15%は回答拒否事案です。
司法改革においても、証拠収集手続きの充実は課題となっており、
まさしくこの制度が適正、公正に活用されることが社会正義や人権の擁護に
役立つものと考えられます。全国の1年間の照会件数は12万件に達しています。
適正な制度の活用のために弁護士会では、弁護士照会のマニュアルを作成し、
また審査のための規則を守って、運用しています。照会した目的以外に情報が
利用された場合には、弁護士は懲戒処分を受けることにもなりかねません。
個人情報の保護は一方で大切であることは当然ですが、個人情報の保護に関する法律は、
本人の同意がなくても第三者に情報提供できる場合を定めています。
弁護士法による照会も法令に基づく場合に該当します。
転居先のほかにも様々な照会事項がありますが、弁護士照会制度の重要性とそれへの理解は、
裁判の行方に大きな影響を及ぼすことに是非ご理解とご協力をお願いします!<池田桂子>