遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への改正による影響について

民法(相続法)改正により、遺留分制度も大きく変わりました。その中で、今回は、遺留分減殺請求権が遺留分「侵害額請求権」に改正されたことに伴う具体的な影響について考えてみます。

 

従前の遺留分減殺請求権は、権利行使(意思表示)をすると「当然に物権的効果」が生じるとされてきました。登記などの手続等を要しないで、直ちに、権利移転の効果が生じるという扱いでした。

 

これによれば、遺留分侵害の割合が3分の1とすれば、遺留分減殺請求権の行使の意思表示によって、全遺産につき、個々に3分の1の持分権が遺留分権利者に生じることになります。したがって、会社等の事業用資産や会社の株式などにも遺留分権利者の権利(持分権)が発生することになります。

会社の株式の場合、全体の株数にその割合に応じた株式が割り当てられるわけではなく、1株ごとに共有(正確には、準共有)ということになります。したがって、株主権を行使するときにも、共有者間で協議が必要となり、対立関係者間で共有されているときは、株主権という権利行使自身が円滑に行えないケースも想定され、事業運営に重大な影響を与えることになります。この場合、遺留分行使を受けた側から持分相当の価格を弁償して、遺留分の行使に対抗できますが、そのための協議なり裁判手続なりで解決するまでは準共有状態が続きます。

 

ところが、今回の改正では、遺留分を侵害された人が遺留分侵害額請求権を行使することにより、遺留分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする債権(金銭債権)が生じることになり、上記の「物権的効果」が生じるわけではなくなりました。不動産や株式についても、遺言等によって、取得した相続人等は、遺留分権利者からの持分主張を受けることなく、完全な所有権を取得することができ、安定的な事業運営ができることになります。

但し、このように遺留分侵害額請求権という形で、金銭債権化したことにより、逆に、気を使わなければならないことも出てきます。

 

たとえば、相続財産も含めて金銭がなく、そのため、金銭支払いに代えて、不動産や株式の現物で渡す場合、譲渡人の方に譲渡所得税及び住民税が発生する場合があります。弁済資金を直ちに準備できない場合、遺留分侵害額請求とされた人の請求により、その人の資力や、贈与または遺贈された財産等を考慮して、金銭支払いについて、裁判所の判断で期限の許与(支払時期を延ばす)ことができるようになりました。こうした制度を利用するのも一つの方法です。

 

なお、譲渡所得税等の課税を回避するために相続人全員(第三者の受遺者がいるときはその人も含めて)の同意が得られるのであれば、遺言書による相続ではなく、改めて遺産分割協議書を作成して相続をすることも考えられます。

 

また、事業承継税制によれば、特例猶予相続承継期間(5年以内)に後継者が贈与された株式を現物返還すれば、贈与税の納税猶予が取消されますが、改正前の民法の場合は、遺留分行使により、株式が共有状態になることから、株式を現物返還しても、株式の一部の譲渡とは考えられなかったのですが、新法になってからは、遺留分行使をしても株式の共有状態は発生しないため、株式という現物で返還をすれば、取消の対象となってしまいますので、注意が必要です。

 

遺留分は遺言の作成がなされた時の問題ですから、遺言を作成する際には、将来生ずるかもしれない遺留分のことも念頭におくことは当然として、さらに、上記のようにその権利の性質の変更にも気を配る必要があります。

 

池田総合法律事務所では遺留分や遺言に関するご相談や遺言の作成についても対応しておりますので、是非、ご相談下さい。

(池田伸之)