限定承認にひそむ思わぬ税の罠

相続するにあたっては、単純承認、相続の放棄、限定承認という、3種類のやり方があり、この中から相続人が選択をします。

 

単純承認は、遺産を取得できますが、被相続人の借入その他の債務も全て引き継ぐことになり、放棄は債務を引き継ぐことはない代わりに、遺産も一切取得できません。

 

限定承認は、この中間に位置するもので、遺産の範囲内で、相続した債務の責任を負うものです。債務が遺産の価格を上回っても、それ以上の責任を相続人が負うことはなく、逆に、債務を完済して遺産が残れば、残った遺産を取得できます。債務の全貌がはっきりしない場合、裁判等で訴えられそこでの支払義務の有無や支払金額が相続時点で不明の場合、遺産の評価が難しく債務を完済できるかどうか微妙な場合等に利用価値があります。

 

但し、限定承認を利用する際に一つ気をつけなければならない点があります。

それは、譲渡所得の課税対象となる不動産等があるときは、限定承認をした場合、相続開始時点における価格に相当する移転(譲渡)があるものとみなされる点です(所得税法59条1項1号)。したがって、取得後の値上り益分があれば、譲渡所得が課税され、申告を要し、申告をしなければ、譲渡所得税に無申告加算税が賦課されます。

 

たとえば、不動産の取得時の価値が500、相続開始時の価格が800、不動産の処分時の価格が1000とした場合、単純承認をした場合に不動産を処分した際には、1000-500=500の譲渡益が発生し、これを被相続人の負担とすべきものとして確定させて限定承認の手続の中で処理をし、相続開始時の値上り益1000-800=200のみ、相続人に負担をしてもらうということです。

 

限定承認をした相続人に過大な負担を与えないような制度として説明されていますが、この制度では、遺産の全てが売却されたものとして、譲渡所得課税が行われますので、税額負担が大きくなりがちです。もちろん、限定承認ではなく単純承認をした場合にも、たとえば、相続債務や相続税の支払いのため、遺産である不動産を処分するような場合に、譲渡所得課税がなされますが、これは、債務の支払いに必要な限度での売却及び納税で済みます。不動産等の譲渡所得課税対象財産の遺産に占める割合が多い場合、不利益がはっきりします。

 

また、相続債務の支払いのために、第三者に売却をしたような場合で、もし、それが居住用資産であるのなら、通常は、特別控除等の特例が受けられますが、限定承認の場合は、被相続人から相続人という身内間の譲渡であり、特別控除が受けられないことになります。

 

最高裁の司法統計によれば、平成23年は相続放棄が全国で166,463件、限定承認が889件、ということで、限定承認はあまり利用されていません。こうした税務上の不利益面が影響しているかもしれません。限定承認をするには、こうした税務面への配慮をしたうえで、必ず譲渡所得税の申告をすることを忘れないようにして下さい。

 

そうしないと、遺産を処分して債務を返済して、少し財産が残ってやれやれと思ったところで、税務署から、無申告を指摘され、莫大な譲渡所得税と無申告の加算税の追徴があるかもしれません。(池田伸之)