養子縁組に関する改正
令和6年のいわゆる家族法改正により、養子縁組に関してもいくつか改正がなされました。
1 養子縁組がされた場合の親権の明確化
現行民法の規定
(親権者)
第818条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。 2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。 3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。 |
⇓
改正民法の規定
(親権)
第818条 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。 2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。 3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。 一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。) 二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの |
⑴ 未成年子が複数の人と養子縁組をした場合の親権について
成年に達しない子(未成年子)は、父母の親権に服します(民法818条1項)。このときに、未成年子が養子である場合には、養親の親権に服することになります(同2項)。
ところで、我が国の民法では、1人が複数の人と養子縁組をすることも可能です(婚姻における重婚禁止(民法732条)のような規定がありません)。そのため、未成年子が複数の人と養子縁組をしたときに、どの養親の親権に服するのかについて現行法上は規定がなく、解釈に委ねられていました。
改正民法818条3項は、「子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。」と規定した上で、第1号として「養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)」と規定し、最後の養子縁組で養親となった者が親権者になることを明確にしました。
⑵ 未成年子と養子縁組をした養親が、未成年子の父母の配偶者である場合について
実父母の離婚後、未成年子がその一方の再婚相手との間で養子縁組をすることがあります(いわゆる連れ子養子)。この場合に、改正民法818条3項1号の規定をそのまま適用すると、未成年子の親権者は再婚相手である養親となり、再婚をした実父母は親権者で無いようにも考えられます。しかしながら、実態としては、再婚をした実父母と再婚相手である養親が共同して子を養育することが一般的であると考えられることから、改正民法818条3項第2号は、「子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの」を親権者として定めました。
2 未成年養子縁組及び離縁の代諾に関するルール
⑴ 未成年養子縁組の代諾に関する規定
養子縁組は、養親となる者と養子となる者の合意によって成立しますが、養子となる者が15歳未満の場合には、その法定代理人が養子縁組の代諾をすることができます(民法797条1項)。未成年者の法定代理人は、親権者がいる場合には親権者ですが、父母双方が親権者である場合には、親権は共同で行使しますので(現行民法818条3項)、父母両方の同意が必要となります。しかしながら、父母の意見が対立したときについて、現行法では定めがありませんでした。
そこで、改正民法では、「第一項の縁組をすることが子の利益のため特に必要であるにもかかわらず、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが縁組の同意をしないときは、家庭裁判所は、養子となる者の法定代理人の請求により、その同意に代わる許可を与えることができる。」と規定されました(改正民法797条3項)。これにより、家庭裁判所が特定の事項について親権行使を単独で行うことを認めるということになります。
⑵ 養子の父母が離婚している場合における離縁の代諾
縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができます(民法811条1項)。養子が15歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でなされます(同2項)。この場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、養子の離縁後にその親権者となるべき者を定めなければいけません(同3項)。
この「親権者となるべき者」について、現行民法では、養子の父母の「一方を」「親権者となるべき者」と定めなければならないとしていましたが、改正民法において、離婚後の父母双方を親権者とすることができるように改正された(改正民法819条)ことに伴い、離縁後の「親権者となるべき者」についても、養子の父母の双方を定めることが可能となりました(改正民法811条3項)。
3 実務への影響
養子縁組に関する改正のうち1については従前の取り扱いを明確化したものにすぎないため、実務への影響はさほど大きくありません。一方で2については、新たに制度が設けされたものであり、実務上の影響も少なくないと考えられます。
例えば、今後の家族の紛争として離婚時に共同親権を選択し、連れ子を養子縁組する場面などで、家庭裁判所が関わる事案も増えていくことが考えられます。子の利益に特に必要かという要件を満たすかが、鍵になるものと言えるでしょう。
(川瀬裕久)