養育費に関する民法改正

親子関係の改正民法は令和8年(2026年)5月24日までに施行されます。

今回は,養育費について,どのような改正がされているのかを解説します。

 

第1 法定養育費の導入

1 現在の養育費の定め方

現在,養育費は両親の話し合いで決めるほかは,養育費請求調停で合意する,家庭裁判所の審判で定められるという形で,養育費の具体的な金額が決まっています。

2 改正民法での変化

(1)法定養育費の導入

改正民法766条の3が新設され,離婚の時に両親が養育費の具体的な金額を取り決めていない場合でも,離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う両親のいずれかは,他の親に対して,一定の法定養育費が請求できるようになります。

この法定養育費は法務省令で別途算定方法などを定めることになっています。

もっとも,法定養育費は,両親が養育費について合意できた時,または審判で定められた時(正確には審判が確定した時),子が18歳に達したときまでの暫定的なものですので,合意や審判などで養育費の具体的な金額が定まれば役割を終えることになります。

現在は,養育費の具体的な金額は,両親のそれぞれの収入状況から養育費の算定表等をもとに定められていますが,給与明細や源泉徴収票の提出が拒否された結果,なかなか養育費が決められないということが実務上はよく起こっています。

しかし,法定養育費が導入されることで,後述の養育費の額を当事者同士で定めた書面が何も存在しない場合でも,給与明細や源泉徴収票などの収入資料が無い場合でも,法定養育費として暫定的な養育費が定められるようになり,さらに法定養育費が一般の先取特権となるため,法定養育費の存在をもって強制執行ができるようになります。

(2)法定養育費の発生

法定養育費は,『離婚の日』から発生し,毎月末までに,その月の分の法定養育費を支払う必要があります。

(3)改正民法施行前の離婚と法定養育費

改正民法の施行前に離婚した場合,法定養育費の定めは適用されません。

改正民法の施行後に離婚した場合に限って,法定養育費が発生します。

 

第2 強制執行手続が容易に

1 現在の養育費の強制執行

これまでは養育費を口頭や夫婦間の覚書などで決めていた場合,養育費を支払うべき側の親が養育費を支払わないときは,公正証書を別途取り交わすか,養育費請求調停を家庭裁判所に申し立て,裁判所の公的な書面である調停調書や審判書が手元になければ,強制執行ができませんでした。

しかし,公正証書は,基本的に夫婦がそろって公証役場におもむいて,公証人の面前で公正証書を作成する必要がありますが,夫婦がそろって公証役場に出向くということ自体,ハードルが高いものです。

また,家庭裁判所で養育費請求調停を申立て,養育費について合意ができた場合には調停調書が作成されますが,すぐに養育費についての合意ができるわけでもなく,調停調書が入手できるまでには相応の時間がかかります。

そのうえで,調停で合意ができなかった場合には,家庭裁判所の裁判官が判断を下す審判がなされることになりますが,これは調停が成立しなかった場合ですので,調停でも時間がかかり,審判が出るまでに時間がかかるので,やはり相当の時間がかかってしまいます。

2 改正民法での変化 ~養育費債権が先取特権へ~

改正民法306条3号が新設され「子の監護の費用」が一般の先取特権になります。

先取特権は,債務者の財産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民法303条)をいいます。

簡単に説明すると,養育費を支払わない親が他にも借金をしていても,その借金よりも優先して回収ができる権利が養育費に認められるということです。

そして,養育費が一般先取特権となることで,前述の法定養育費とあわせて,先取特権の存在を示す文書があれば強制執行ができるようになります。

ただし,先取特権が認められる養育費の範囲(金額)は,改正民法308条の2において法務省令で定めることとなっていますので,実際には法務省令で定められた金額の範囲内になります。

したがって,改正民法が施行された後は,養育費の額を当事者同士で定めた書面が何か存在すれば,それが養育費という先取特権の存在を示す文書となって,その文書をもとに強制執行(例えば,給与の差押えや預貯金の差押えなど)を行えるようになります。

また,前述のとおり,養育費の額を当事者同士で定めた書面が何も存在しない場合でも,法定養育費が一般の先取特権になるため,やはり法定養育費の範囲内で強制執行が行えるようになります。

 

第3 その他の養育費請求の利便性向上

1 財産状況に関する情報開示命令

改正人事訴訟法34条の3,家事事件手続法152条の2が新設され,家庭裁判所が子を監護していない親の収入や資産の状況に関して情報を開示するよう命ずる情報開示命令制度が導入されます。

これにより,家庭裁判所の養育費の調停などの際に,給与明細や源泉徴収票の提出を拒否する親に対して,収入や資産状況を開示させることができるようになります。

なお,情報開示命令に対して開示を拒否したり,虚偽の情報を開示した場合には,10万円以下の過料の制裁があります。

2 民事執行の各制度のワンストップ化

改正民事執行法167条の17が新設され,地方裁判所に養育費の支払いを求めるために財産開示手続を申し立てた場合には,同時に市町村に対して養育費の支払い義務者の給与情報の提供を命じる第三者の情報取得制度の申立てがあったことになり,さらに給与を差し押さえる債権差押命令の申立ても同時に申し立てられたとみなされることになり,強制執行手続の一部分がワンストップ化します。

 

第4 まとめ

養育費を支払ってもらえないことが多いという現実の前に,養育費の制度が大きく変革される時期に差しかかっています。

改正された法律を活用して,お子さんのために養育費を確保していくためには,弁護士の関与が必要不可欠です。

池田総合法律事務所では離婚,養育費なども取り扱っていますので,お困りの方は,池田総合法律事務所に一度ご相談ください。

〈小澤尚記(こざわなおき)〉