Q&A 借地契約の期間、建物買取請求について-マンション老朽化をめぐって(相談事例から)-

Q.借地契約の期間、建物買取請求について

          -マンション老朽化をめぐって(相談事例から)-

 

昭和40年に私所有の土地を貸して、親戚の者が、賃貸マンション(鉄筋コンクリート)を建てました。地代については決めましたが、契約期間等はきめず、契約書も取り交わしていません。今日まで50年が経過していますが、メンテナンスが不十分で、建物の傷みもひどく、空室も出ています。何度も土地代の値上げをお願いしましたが、収支があがらないといって、この間1回も上げてくれません。この際、賃貸契約を解除して、ビルの取り毀しをして出ていってもらいたいと思いますが、そうしたことができますか。

 

A.土地の有効利用は大切ですが、マンション等の大型建物の敷地として貸される場合は、長期間に亘るため、容易に明け渡しを求めることは難しいものです。

 

建物を建てる目的による土地の賃貸借には、借地借家法が適用されますが、建物が建てられた昭和40年当時は、現在の借地借家法はなく、旧借地法の適用があります。特に契約期間を定めなかった場合、鉄筋コンクリート等の堅固な建物の場合は、契約期間は60年となります(現在の借地借家法では、建物が堅固かどうかに拘わらず、一律30年です。)。

 

したがって、あと11年契約期間が残されていますので、期間中の契約解除の申し入れは、相手方が承知すれば別ですが、できません。

 

それでは、11年後の契約の満了時に出て行ってもらえるかというと、相手方は建物がある限り、更新の請求ができます。期間は30年となります(借地借家法では20年)。この場合、地主は更新を拒絶することはできますが、そのためには、自分で土地を使う必要がある等の「正当事由」の存在が必要となります。よほどの強い正当事由がなければ、更新拒絶は認められず、また、何らかの正当事由が認められる場合にも、立退料を出す等して、正当事由の補強を求めているのが裁判実務です。

 

また、仮に、期間満了にあたって、地主が更新を拒絶し、借地人がこれを了解したとしても、借地人は、残った建物の買取を請求することができます。

 

地主は、土地を更地で返してもらえないだけでなく、建物を「時価」で買い取らされることになります。

 

仮に、そうした事態を回避するため、予め建物買取請求権を契約書等で放棄してもらっても、その条項は無効となります(但し、定期借地権、事業用定期借地権の設定の場合には、買取請求の放棄は有効にできます。)。

 

本件の場合、即ちに建物を取毀してもらって出て行ってもらうことは難しいと思います。但し、いずれにしても、契約書を交わしておらず、お互いの契約関係がどのようなものであるか明確ではありません。しかし、今後のことに向けて、契約関係を明らかにするための交渉をすることは、土地の有効利用、建物老朽化に伴う入居者の減少などを考えると、今後のため、貸主・借主相互に意義があり、次の利益を生み出すことになります。また、従前の契約内容を明確化するために覚書を取り交わしたり、あるいは、たとえば、従前の契約を合意解除して、事業用借地権に設定しなおす等の対応が必要となってきます。               (池田伸之)